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違法建築について当事者双方が認識していた場合の請負代金請求の可否が争われた事案(東京地判令和元年12月24日)

1 事案の概要

 本件は、旅館を運営する会社から工事を依頼された業者が、旅館に附属する露天風呂の造設工事、旅館建物内及びその周辺の改修工事並びにその追加工事を請け負い、各工事を完成させて引き渡したにもかかわらず、請負代金全額を支払わないと主張して、旅館運営会社に対し、工事代金及び遅延損害金を請求した事案。
 主たる争点は、工事に建築基準法違反があり代金請求が信義則に反するか、

2 裁判所の判断

(1)建築基準法違反があった場合に代金請求が可能かについて

 特定の建物の建築等についての請負契約に建築基準法違反の瑕疵があるからといって、直ちに当該契約の効力を否定することはできないが、当該契約が建築基準法に違反する程度(軽重)、内容、その契約締結に至る当事者の関与の形態(主体的か従属的か)、その契約に従った行為の悪質性、違法性の認識の有無(故意か過失か)などの事情を総合し、強い違法性を帯びると認められる場合には、当該契約は強行法規違反ないし公序良俗違反として私法上も無効とされるべきである(東京高判昭和53年10月12日、同平成22年8月30日)。
 本件では、本件契約において建築が予定されていた露天風呂は、建築基準法6条1項4号所定の建築物に該当し、その建築には、当該建築につき同条による建築主事の確認を受け、確認済証の交付を受けなければならず、工事完了時には同法7条により当該建築物が法令に適合するかどうかについて検査を受けなければならないが、本件露天風呂工事は、事前に建築確認を受けずに施工され、工事完成後の完了検査も経ていないもので、上記建築基準法の規定に明確に違反しており、旅館に附属する露天風呂として不特定多数の公衆の利用が予定されていたにもかかわらず、建築基準法所定の安全基準に合致していることが全く担保されていなかったことになるから、違反の程度は重いというべきである。

そして、本件では双方が、建築基準法に違反する違法な行為であることを認識しつつ上記行為を行ったことは明らかであるが、原告が、被告に対し、違法行為を求められても従わざるを得ないような従属的な立場にあったとまでは認められない上、原告は、建設業法3条1項の許可を受けていないにもかかわらず、本件契約を締結して本件露天風呂工事を施工したもので、その行為は、建築基準法のみならず建設業法にも違反しており、悪質であると言わざるをえない。
 これらの事情を考慮すると、本件露天風呂工事の施工自体が建築基準法の規定に違反し、強い違法性を帯びるものであるといえるから、本件契約は、強行法規ないし公序良俗に違反するものとしてその効力を否定されるべきものである(被告は上記露天風呂を取り壊す予定であること、原告は本件契約に基づく請負代金のうち1100万円を既に受領しており、同金員は不法原因給付として被告への返還義務はないと解されることから、本件契約の効力を否定することによって、当事者の一方を不当に利する又は害することにもならないというべきである。)。したがって、原告の被告に対する本件露天風呂工事に係る残代金請求には理由がない。

3 コメント

 施主から違法建築を依頼され、請負業者が止む無くこれを受け、違法建築が発覚した後に施主がこれを否定して争いになる場合があります。本件も同様の事案ですが、裁判所は、最判を引用して、建築基準法違反が直ちに私法上契約が無効となるものではないとした上で、本件では、請負業者が建設業法の許可を得ておらず、工事対象物件が不特定多数の人が訪れる旅館の風呂という事情もあることなどから、建築確認申請が出されず完了検査設けていないのは重大な違法があるとし、請負業者側も違法建築を受け入れざるを得ないような弱者ではないから工事を行ったことは悪質であり、契約自体が公序良俗違反で無効であるとし、請負代金の残代金の請求を否定した。なお、施主側も違法を認識していたことから不法原因給付として既払金の返還請求はできません。

(2022.12.1)