1 事案の概要
本件は、施主が施工業者に注文した共同住宅2棟の新築工事について、耐火性能が不十分であったこと等の瑕疵があったとして、施工業者に対し請負契約の担保責任又は説明義務違反に基づき、修補費用等の損害賠償を請求した事案。
主たる争点は、①民間建設工事標準請負約款の瑕疵担保期間について定めた規定が民法の特則か、②時効の起算点について、③説明義務違反の時効の起算点について、④時効の主張が権利濫用にあたるかである。
2 裁判所の判断
(1)担保責任について約款が民法の特則かについて
民間建設工事標準請負契約約款は、工事目的物の瑕疵によって生じた滅失毀損について規定し、これは補修や損害賠償の対象となるものであるから、工事目的物たる建物自体の瑕疵について民法の特則を定めたものと解することができ、本件において適用を排除すべき理由はない。
(2)担保責任の除斥期間の起算点について
約款における瑕疵担保責任の存続期間の起算点は、改正前民法と同様、引渡時とされる。 本件においては、施工者が建物完成後に一括借上げをしているが、法は引渡しを予定しない請負契約の場合をも想定しているのであって(同法637条2項参照)、現実の引渡しがないことを殊更問題とする必要はない。加えて、一括借上げという形態を踏まえると、現実の引渡しがないことは注文者において当然に想定されるのだから、担保責任の起算点は、建物の引渡しがなされた日(一括借り上げの契約締結時)である。
(3)説明義務違反に基づく請求権の消滅時効の起算点について
施主において説明義務違反を追及するとしても、請負業者の説明義務およびその違反は遅くとも引渡し時点で生じており、その時点ですでに注文者の権利が発生していたのだから、前記(1)と同様、引渡しの時点から権利行使が可能だったというべきである。
(4)消滅時効援用が信義則に反するかについて
施工業者が建物を建築する目的を達成できなくなることを知りながら、その権利行使の機会を奪ったという事実を認める証拠がない。
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瑕疵担保責任の除斥期間の起算点について民法の規定に基づき判断したものであるが、耐火性能が不十分であった等の法的な瑕疵は、行政機関などの第三者から指摘により発覚することが多く、指摘された時点で瑕疵担保責任の時効を過ぎていることが考えられます。
(2022.11.20)
1 事案の概要
本訴は、リフォームを請け負った業者が、注文主に対し、本工事及び追加工事の残代金及び遅延損害金を求めた事案。反訴は、注文主が請負業者に対し、契約に反した施工を行い、未完成部分、不具合部分、瑕疵部分が多数あり、また、請負業者が工事を遅延させたために賃料収入を失ったなどと主張して、契約不履行に基づく損害賠償請求権(債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を主張するものと解される。)に基づいて、損害賠償金及び遅延損害金を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)仕事の完成の有無及び本件残代金請求権の有無について
民法及び請負契約における解釈として、請負業者が注文主に残代金を請求するための要件としては、①請負業者が本件工事について予定された最後の工程を終了させ、②注文主が請負業者立会いのもとで工事完了検査を行い、③その後、補修することが社会通念上相当と思われる箇所(以下「指摘箇所」という。なお、許容限度の範囲内のものは含まない。)が存在しない状態になり、④正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当することが必要であるとした。
そして、本件では、予定した工事が終了しており、指摘箇所があったと認める証拠はなく、2度目の工事完了検査以降、当事者間では補修について折合いがつかず、請負業者が、請負業者において補修が必要であると判断した箇所とその補修方法を記載した文書を、それまで使用されていた注文主のメールアドレス宛に送信し、これに対する被告からの応答が2カ月なかったのであるから、注文者において正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当するとして、前記要件④も充足される、報酬請求可能とした。
なお、注文趣旨がメールを閲読したかは不明であるが、閲読することは可能であったといえ、それまでの当事者間の連絡方法の態様を考慮すると、請負業者において、注文主による当該文書の閲読を期待することには相応の合理的根拠があったというべきであるとして、注文主が実際に閲読したかどうかは関係ないとした。
(2)瑕疵について
瑕疵については、根太の不設置、床スラブの不陸、サッシのアングルピースの波うち、壁紙の浮き、しわ、凸凹等、巾木と床の隙間などが主張されたが、契約上の施工水準や一般的施工水準をもとに判断した。その結果、壁紙の凸凹は下地の不具合に由来するものがあると認められるところ、下地の補修について契約違反があったとは認められないとした。また、アングルピースは、経年劣化による歪みについて叩いて直すことがあり、その結果歪みが生じても機能上も美観上も問題ないとして瑕疵に当たらないとした。
(3)請負業者による解除の有効性について
瑕疵により目的達成不能ではないから瑕疵担保責任に基づく解除はできず、請負業者に債務不履行はないか(履行遅滞)ら債務不履行に基づく解除もできないとした。
(4)工期延長による債務不履行責任について
工期延長について請負業者に帰責事由はなく、請負業者の瑕疵担保責任と注文主の残代金の支払債務は同時履行の関係に立つので、瑕疵担保責任の履行が遅延したことについて請負業者は責任を負わないとした。
(5)損害について
修補費用については、直接工事費(材料費、労務費、水道光熱費等)に対して諸経費25パーセントと消費税8パーセントを認めた。また、調査費用として、実際の瑕疵該当性等も踏まえ3割相当額、弁護士費用として10%相当額を認めた。建物を賃貸できないことによる損害は、残代金請求と瑕疵修補又は損害賠償請求が同時履行の関係にあり、注文主から残代金の弁済の提供がないことから、瑕疵の補修又は損害の賠償が遅滞したことにより注文主に損害が生じたとしても,その遅滞については違法性が認められず、請負業者の賠償責任を認めなかった。なお、建物引き渡しの有無は結果を左右しないとした。
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民法上、請負契約においては、仕事完成により報酬請求権が発生し、建物建築請負工事契約における仕事の完成とは、予定された最後の工程が終了したことを意味します。本件では、予定された最後の工程まで終了しており、契約及び約款で定められた要件も満たしているとして、請負業者による報酬請求権を認めました。そして、報酬請求と瑕疵修補又は修補に代わる損害賠償請求、報酬請求と建物引き渡しは同時履行の関係にあるとして、修補が遅延していることや引き渡しがないことについての損害賠償請求は認めていません。
(2022.11.13)
1 事案の概要
本件は、大学校舎の改修電気設備工事を請け負った下請業者が、元請業者に対し、請負契約における報酬合意として、①主位的に、実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意をしたと主張して、請負契約に基づく未払報酬及び確定損害金並びに同未払報酬額に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②予備的に、仮に上記報酬合意が認められないとしても、相当額の報酬を支払う旨の合意をしたと主張して、請負契約に基づく未払報酬及び確定損害金並びに同未払報酬額に対する遅延損害金の支払を求めた事案。
主たる争点は、①実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したか、②相当額の報酬を支払う旨の合意が成立したか、③相当な報酬額がいくらかである。
2 裁判所の判断
(1)実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したかについて
下請業者が元請業者に対し、複数回にわたり各月の労務費及び部材費等を請求する旨の請求書又はそれに類する書面を送付したが、元請業者がこれらの請求書等に応じた報酬を一度も支払っておらず、また、当該請求書等で請求された報酬を支払う意向を示していたことをうかがわせる事情も見当たらないことから、実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したと認めることはできないとした。
そして、下請業者が元請業者に工事の見積書を複数回提出しこれに関するやりとりを行ったこと、元請業者が作成した工事金額(予定)欄に「¥未定 ※工事金額未定の場合は、見積書提出後に協議の上、決定します。」との記載のある「指示書」を下請業者に出し、下請業者が、「上記の通り工事の指示内容を承諾いたします。」と記載した「承諾書」を作成していることから、当初から、見積書に基づき報酬額を決定すること、すなわち、工事の報酬を、実費ではなく、見積書を基にした固定額とすることを、予定していたというべきであるとした。
(2)相当額報酬支払の合意について
元請業者が請負契約に基づき相当な報酬額を支払う義務を負っていること自体は認めていることから、両者は当初から見積書に基づき報酬額を決定することを予定していたといえ、請負契約締結の際、少なくとも黙示的に相当な報酬額を支払う旨の合意が成立していたとした。
(3)相当な報酬額について
まず、相当な報酬額は、当事者間に推認される合理的意思や、工事の規模・内容等諸般の事情を総合して判断するのが相当であるとして、下請業者が元請業者に提出した最終の見積書の額をベースとして、出来高割合方式により相当額について認容した。
なお、下請業者は、元請業者に提出した最終の見積書については元請業者に作成するよう指示されたもので下請業者の希望額ではないと主張したが、証拠上、元請業者から強いられたとは認められず、その内容についても、元請業者が入札した際の予定価格のもととなる工事内訳書を基に作成されたものであることなどから、見積書にも相応の信憑性が認められるとして、下請業者の主張を排斥した。一方、元請業者も最終の見積書の額については争ったが、当初見積書については修正を依頼したにもかかわらず、最終の見積書についてはそうした行動をとらなかったとして、元請業者の主張を排斥した。
また、下請業者は、被告指示、変更工事等により工事の人件費及び部材費が増大した、と主張したが、いずれについても、人員を適切に配置することで対処できた可能性が否定できない、あるいは、増大した人件費や部材の具体的な金額が証拠上明かでないなどとして排斥した。
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本件では、報酬額の合意について争いとなったが、見積書に関する当事者の交渉経緯を詳細に認定し、合意の成立を判断しています。見積書に対して単に応答しなかったことをもって黙示の合意が成立したということにはなりませんが、当初見積もりについては修正を依頼したにもかかわらず、その後の見積書に何ら異議を述べなかった場合は、黙示の合意の推定が働く可能性もあります。
なお、元請業者の指示等による部材、人件費が増大したという下請業者の主張は、証拠上増大した具体的な金額が明らかでないとして排斥しましたが、本件は、専門家調停委員が入っていないことから、専門家調停員が入った場合、変更工事等による人件費の増加等については、異なる結論が出た可能性も否定できないと考えます。
(2022.11.12)
1 事案の概要
本件は、共同住宅の建築を請け負った請負業者が,注文主に対し、追加変更工事が発生し、当該追加工事についての見積額での合意が成立しているとして、追加工事代金請求をした事案。
主たる争点は、①追加工事についての合意の有無等、②工事完成遅延による遅延損害金の発生である。
2 裁判所の判断
(1)追加工事の合意の有無等について
請負業者が注文者に対し、工事の施工中及び完成引渡し後に各追加見積りを交付したことは認められるが,その支払について具体的な協議はなされておらず,各追加見積りの内容及び金額からすると,被告がこれを黙示に承認する趣旨で受け取ったと考えることはできない。注文主が請負業者に対し書面やメール等での個別の金額に対する査定の意見を出さなかったことなどを考慮しても,各追加見積り記載の金額を支払う黙示の合意がなされたということはできない。もっとも,注文主も各追加見積りのうち追加工事に当たる部分に関する相当の代金を支払う必要があることは認識していたといえるのであって,追加工事代金として相当額を支払うことを黙示に合意していたと認められるとして,追加工事と認定できる工事については代金請求権を認めた。
なお、注文主が追加工事見積に対して明確に異議を述べなかったことについては、疑問を呈しつつも、契約時において当然に予定されていたと評価できる工事について追加変更工事として工事代金の支払を認めることは相当ではないとして、当初見積もりの前提となった図面に記載されている工事等は、本工事に含まれるものであり、見積落ちに過ぎないとして追加工事として認めなかった。
(2)工事完成遅延について
契約書の完成予定日は記載していなかったが、工事の完成日を定めた工程表を交付していたことが認められることから,契約の工期を同日までと合意したと認めるのが相当であるとした。その上で、注文主から変更工事の依頼により工期が遅れた分は請負業者側の責めに帰すべき事由に当たらないとして、追加変更工事に必要な期間が終了した時点を完成日と認定し、そこから遅れた日数分の遅延損害金を認めた。
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追加変更工事に関する争いは、①追加工事であるか(本工事に含まれない追加の工事か)、②施工合意があるか否か(明示、黙示含む)、③有償性の合意があるか(サービス工事や是正工事にあたらないか)等でした。
本件では、①については、契約時の見積書作成の前提となった図面に記載のある内容の工事は、契約時見積書に記載がなく、追加見積書に記載されてあったとしても、それは契約時見積書における見積落ちであり、追加工事に当たらないと判断しました。つまり、契約締結時の図面を参考資料として本工事に含まれるとしました。②については、請負業者側が出した追加工事の見積書に注文主が異議を述べなかった事実だけでは合意が成立しているとは言えないと判断しました。もっとも、当初図面にもなく、請負業者が勝手に施工したとはいえないような工事については、施工合意についてみ認め、③の有償性についても認めました。
(2022.11.9)
1 事案の概要
木造建物の建築を依頼したところ、設計図書のうちの基礎断面図の記載と異なる施工がされていたことが判明したことから、注文主が請負業者に是正を要求したところ、是正のためには配筋を全体的に解体する必要があることが判明し、請負業者が基礎配筋の一部を解体したが、その後一切工事を行わなかったことから、注文主が債務不履行を理由に契約を解除し、前払金の返還と損害賠償請求を行った事案。
2 裁判所の判断
請負業者は、コロナ罹患や契約締結前の事情を抗弁として主張したが、コロナ罹患があったとしても工事を長期間行わずなかったことについて帰責性がないとは言えず、契約締結前の事情は考慮要素とはならないとしてた。そして、請負契約上予定されていた完成日までに建物が完成していないのみならず、工事が中断したままで、その後の相当期間経過時点において完成する見込みがないとして、注文主による契約解除を認めた。
損害としては、完成が遅れたことによる逸失利益、完成が遅れたことにより必要となった資金の借り換えに関する前払い利息、印紙代、一部残された基礎配筋が使用可能か判断するための調査費用、解体費用について相当因果関係のある損害として認めた。なお、家賃収入については、全室満室になったということもできないが、入居者が全くなかったということもできないとして、原告請求の16か月分(当初予定から遅れた期間分)について4分の3を限度で認めた。
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契約上予定された完成日を過ぎた後も相当期間工事が中断したままであったことを踏まえると、債務不履行解除は妥当と考えらえます。収益物件の場合、完成が遅れたことにより得られるはずであった賃料が得られなかったとして、完成が遅延した期間分の賃料収入相当額についての損害が争点となることがあります。多くの事案で損害として認められていますが、満室想定で認められることは考えにくく、本件では4分の3を限度として認められました。
(2022.11.5)
1 事案の概要
本訴は、設計業者が、発注者に対し、建物の建替えに関する基本設計業務委託契約に係る事務につき債務の本旨に従った履行をしたと主張して、報酬請求をしたのに対し、発注者が設計会社に対し、設計内容を実現するための工事費の見込額が被告の設定した予算内となるように基本設計業務をするとの合意がされていたところ、原告による基本設計は工事費の見込額が上記予算を超過しており、原告が履行期間内に債務の本旨に従って基本設計業務を完了しなかったことから、契約を解除したとして、既払金の返還等を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)債務不履行解除の有効性について
コンサルタントの「総事業費20億円に無理に合わせる必要はないが、30億円超はオーナーにとって高いかもしれない。」との発言などの事情は、本件契約において30億円までの予算設定が許容されていたことを基礎付けるものとは認め難いとして、概算工事費(予算)につき「税込み約20億円」ないし「坪単価95万円×延床面積約2182坪」が目安として示されていたものと認められるとし、設計会社は、契約上、これらの目安に留意しつつ設計業務をすべき義務を負っているとした。
そして、「現行案」の概算工事費が30億3800万円余り(税別)にまで増加した主たる原因は、発注者側が様々な要望を立て続けに示し、設計会社が、そのような要望の多くを基本設計の中に盛り込んでいったことによるものであるところ、発注者側においては、自己が示した要望を満たすためには工事費の増加が見込まれることそれ自体は当然想定できるものというべきではあるが、具体的な増加金額を正確に見通すことは必ずしも容易なことではないと考えられ、契約に基づく基本設計が不動産賃貸事業用の建物に関するものであることも勘案すると、概算工事費の目安に留意しつつ設計業務をすべき本件契約上の義務を負っていた設計会社においては、発注者側から建物の用途・仕様、付加価値設備等に関して概算工事費に影響を及ぼすような新たな要望がされた場合には、その要望を満たすためにはどの程度の工事費の増加が見込まれるかを適宜のタイミングで説明するとともに、打合せの節目には、それまでの打合せの結果を踏まえた概算工事費の額を提示するなどして、契約に関して示されていた概算工事費の目安と被告側の種々の要望とを十分に調整した上で設計業務をすることが、契約に基づく基本設計業務の内容をなすものとして求められていたものというべきであるとした。
その上で、本件では、設計会社において、発注者側から要望された項目につき、それを満たすためにどの程度の工事費の増加が見込まれるかを個別に説明したことはそれほど多くなく、また、全体の概算工事費については、基本設計図書を発注者側に送付するまで示していなかったものである。そして、基本設計図書において示された概算工事費が概算工事費の目安を大きく超えたもの(7から8億超)となっていたものであり、また、解除がされるまでの間に原告から示された減額案(最も概算工事費を押さえたもので2億強超)も、概算工事費の目安とは未だ億単位の開きがあったことからすれば、設計会社においては、算工事費の目安に留意しつつ設計業務をすべき本件契約上の義務を履行したものとはいえず、債務不履行を理由とする解除は有効とした。
(2)出来高分に清算について
契約上、割合報酬を認めているとして、①契約の内容、②契約に定められた業務期間における両当事者の交渉経緯及び内容、③基本設計図書に係る基本設計の内容は、建物の客観的な性能、仕様、用途等の点からすれば、契約において求められる水準を十分に満たすものであったこと、④設計者側かから示された各種案の内容等を踏まると、概算工事費の目安に沿うものに調整することは可能であったというべきこと、⑤契約上、発注者においては、基本設計図書を利用して実施設計を行い、建築物を1棟完成させる目的及既存建物の増築等のために必要な範囲で、基本設計図書の複製、変形、翻案、改変その他修正などをすることができるものとされていることなどを勘案すると、本件において、契約が解除されるまでの間に債務の本旨に従って履行した割合は5割と認めるのが相当であるとした。
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設計業務においては、依頼者の要望を聞き取りする中で、当初の予定額から建築の概算額が増えることがあり、これを理由に紛争に発展することが少なくありません。本判決は、そうした事情を前提に、設計会社がその都度丁寧に増額見込みについて説明し、予算額に近い金額に納めなかったことが債務不履行に当たるとしました。
また、本判決は、契約上、割合報酬請求の規定があるので、設計内容自体は有用であるとして、5割の範囲で報酬を認めました。本件は、契約を根拠としていますが、民法634条は請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなし、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求できると規定しているので(最判昭和56年2月17日同旨)、契約に定めがなくでも割合報酬の請求が可能です。なお、設計契約は請負契約が準委任契約か争われる場合がありますが、準委任契約の場合でも、民法648条3項は委任契約が委任者の責めに帰することができない事由によって委任事務の履行をすることができなくなったとき、又は、委任が履行の中途で終了したときに割合報酬請求できることを規定しているので、同様に割合報酬を請求することができます。
(2022.9.2)
1 事案の概要
v新築工事における電気設備工事(本工事及び追加工事)を請け負った電気設備業者が,発注者に対し、本件工事を完成させたと主張して,請負契約に基づく未払請負代金及びこれに対する引渡日の後から支払済みまでの遅延損害金の支払を求めた事案。
2 裁判所の判断
工事を引き継いだ時点で撮影した現場写真をもとに見積書記載の工事が必要であったと認定し、当初見積書と実際に行った工事から、本工事と追加工事の内容を認定し、金額も不相当ではないとして、請負業者の請求を認めた。
3 コメント
契約締結時の見積書の内容が請負契約の内容を特定するために重要であること、途中から工事を引き継ぐ場合は、引継ぎ当初の状況を撮影して資料として残しておくことが請負業者にとっては重要であることがわかります。
(2022.9.2)
1 事案の概要
本件は、焼き鳥店を開業するために店舗内装工事を発注した者が、内装業者に対し、瑕疵があったなどと主張して、瑕疵担保責任に基づく修補に代わる損害賠償及び債務不履行に基づく損害賠償として、修補費用、逸失利益、弁護士費用等を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)瑕疵について
図面と異なる設備が設置されていたこと、機械換気設備の設置については、行政の運用上、業務用の厨房においては業界団体である一般社団法人日本厨房工業会認定の換気扇を使用するよう指導されており、業務用厨房で設置する機械換気設備は業界団体認定品を使用することが施工水準となっているところ、設置された換気扇が認定品ではないこと、東京都火災予防条例上の義務づけられている設備を設置していなかったこと等が瑕疵とされた。
(2)損害について
修補費用(現場経費約7%、諸経費約11%含む)、7日間休業(工事前後の準備期間含む)の逸失利益、弁護士費用5%を認めた。
なお、逸失利益算出の基礎となる金額の算出に際し、開業当初は売上げが安定せず、今後の営業のための経費も必要であることから、開業から1年が経過した以降の売上げや経費に基づいて逸失利益を求めるのが相当であるとして、開業から1年経過後の3か月の平均売上からその間の原価、流動費を控除した額をベースに7日分の金額を算出した。
3 コメント
瑕疵の判断について、図面や一般的施工水準、法令をもとに判断しており、一般的な判断方法である。また、損害については、修補費用に一定の利率で経費を上乗せるするのが一般的ですが、現場経費も含めて諸経費として計上することが多いようです。
(2022.10.31)
1 事案の概要
本件は、請負会社が注文主に対し、外壁塗装等の請負代金の支払いと求めたところ、注文主が請負業者に対し、請負業者よる杜撰な工事等により精神的苦痛を受けたとして慰謝料請求するとともに、工事の完成が遅滞したとして約定の遅延損害金を求めた事案。
2 裁判所の判断
(1)慰謝料請求について
請負業者の工事が総じて杜撰なものであり、本来であれば必要のなかった工事が行われることによって、注文主は、生活の本拠である自宅において騒音・振動等の工事に伴う不利益をより長期間(37日間)甘受せざるを得なかったのであるとして、債務不履行又は不法行為に基づき、精神的苦痛に対する賠償をする義務を負うとして10万円の慰謝料を認めた。
一方、補修工事をめぐる協議等の場面における請負業者側の対応により精神的苦痛を受けたとする注文主の主張については、慰謝料を生じさせるほど高度の違法性があったということはできないとして否定した。
(2)約定遅延損害金について
工事請負契約における完成の成否は、工事が予定された最後の工程まで一応終了したか否かによって判断すべきであって、予定された最後の工程まで終了しているものの、それが不完全であって修補を要する場合には、工事は完成しており、あとは瑕疵担保責任の問題になるにすぎないと解するのが相当であるとし、本件では、シーリングの一部未施工があるが最後の工程まで終了しているとして、遅延損害金は認めなかった。
なお、請負業社側が工事遅延により迷惑をかけた旨謝罪しているが、それは、慰謝料を支払う旨の提案であり、完成の成否を左右するものではないとした。
3 コメント
建築訴訟においては、瑕疵が修補されれば損害は賠償されたとして慰謝料請求を認めない事例が多いですが、本件で慰謝料請求が認められたのは、元々の工事が杜撰であったことや外壁工事で建物の周囲が足場等で覆われていたという事情も加味されたものと考えられます。
なお、工事完成の有無についての判断は、一般的な判断方法によっています。
(2022.10.30)
1 事案の概要
建物引き渡しから約10年後に床の絨毯を敷いていた部分が変色したとして、請負業者に対し、瑕疵担保責任ないし変色の可能性について説明しなかった説明義務違反があると主張して争った事案。
2 裁判所の判断
(1)床材に瑕疵があるかについて
床材(木材)が紫外線や熱、水分等の外的要因により変化しやすいことは一般的に広く知られた事実であり、床材の絨毯下部の蓄熱も、絨毯に日光が当たること等による熱エネルギーによるもので、建物の引渡しから約10年が経過する過程で一般的な経年変化として生じたものであること、例えば絨毯等をめくって一定期間紫外線を当てれば元に戻る一時的な状態であること、床材がそもそも建築材料として使用できないような品質であるとはいえず瑕疵に当たらないとした。
(2)説明義務違反について
床材の経年劣化については一般的に知られているところであり、パンフレットにも経年劣化について記載があったから説明義務違反もないとした。
3 コメント
床材の変色が、日光が当たることによる熱エネルギーにより絨毯下部の蓄熱が生じ、経年劣化として変色したものであるとの床材メーカーの調査結果をもとに判断している。10年経過していることを踏まえると妥当な判断と考えられます。
(2022.10.30)