1 事案の概要
本件は、建築工事請負契約の締結に当たり、建築業者が注文主に対し「地震の揺れによる全・半壊ゼロ。」との記載があるカタログを提示して説明したのに、実際には阪神淡路大震災の際、その設計・施工上の問題に起因する大規模な損壊が生じており、半壊となった例が存在していたから、明確な虚偽を含む広告であったとして、注文主が建築業者に対し、①主位的に、消費者契約法4条1項の不実告知による取消し、同条2項の重要事項の不告知、錯誤無効、詐欺取消しに伴い、請負報酬額全額について不当利得の返還を求め、②予備的に、虚偽の内容を含む説明を行い、過去に建物の居住の安全性に影響を及ぼす事態が生じていた事例について説明する義務を怠ったとして、不法行為ないし債務不履行に基づき損害賠償請求した事案。
2 裁判所の判断
建築業者は、過去の震災対象地域に存在する同社が設計、施工した建物について、同社基準による全壊・半壊認定となった建物がなかったことから、平成10年頃以降、「地震の揺れによる全・半壊ゼロ」という広告を用いた広告活動を行っていたというもので、広告は十分な裏付けを伴う内容であると認めることができ、かつ、注文主が主張する建築業者施工建物の過去の地震被害による裁判例も建物が半壊したことを認めるものではないから、建築業者の広告が内容虚偽の広告であるとか、これを用いた被告の説明が虚偽説明に当たるということはできないとした。
なお、前提となる建築業者基準の合理性については、ツーバイフォー工法に対する被害調査の指標として、完全修復が困難な箇所があるかどうかを基準としたことは、住宅性能評価制度における耐震等級とも共通する考え方で合理性があるとした。
3 コメント
本件は、建築された建物に何ら不具合は生じていない中、注文主が請負契約の取消等を主張して争ったことから、建築業者の広告内容の合理性についての判断が中心となりました。ポイントとしては、「全壊」「半壊」の定義、建築業者の施工物件で過去に半壊となった事例があるかでした。前者については、行政、業界団体において統一的な認定基準はない中で、建築業者の基準が公的な評価制度とも共通する考え方であるとして合理性を認めました。後者については、注文主主張の裁判例が半壊を認定したものではないから、その主張を排斥しています。
本件では、虚偽広告に当たらないとされましたが、建築業者のパンフレットやチラシの内容めぐって争いとなることは少なくなく、注意が必要です。
(2022.10.30)
1 事案の概要
戸建て住宅の新築工事に関し、注文主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求、不当利得返還請求、請負業者が追加工事及び減工事による未払請負代金支払請求を行った事案です。
主たる争点としては、①請負代金の合意の有無、②見積書に記載の未施工工事が、未施工の瑕疵にあたるかコストダウンのために中止したものか、その他工事の施工内容が瑕疵にあたるか、③追加変更工事の合意があったかです。
2 裁判所の判断
(1)請負代金の合意について
当初見積額について施主が異議述べている事実があることから、当初見積額での合意を否定した。一方で、施主が建物の現状を確認して追加の請負代金を支払ったこと、支払時に後日の精算について言及していなかったこと、その後も訴訟まで特に返金等の精算を求めなかったことなどから、少なくとも注文主が支払った金額の限度で合意は成立しているとした。
(2)瑕疵について
当初見積額から請負代金を減額していることから、当初見積書に記載された内容のすべてが合意されているものではなく、コストダウンにより中止されたものや施工内容が変更されたものがあるとし、見積書と異なる部分が通常のコストダウンとして合理的(注文主が特に設置をこだわっていたとか、必須ではないもの)であるとして瑕疵に当たらないとした。
その他複数の瑕疵については、一般的施工水準に達しているか、機能上問題ないかという観点から瑕疵を判断している。具体的には、換気扇の設置位置が設計図と若干異なっている点について、換気性能として問題ないことから瑕疵ではないとした。一方、車庫内の木製棚が給湯器の側方に近接して設置されて防火性能を満たしていない点について、注文主の意向を尊重したとの請負業者の主張を施主が防火性能まで理解していたとは言えないとして瑕疵とした。
3 コメント
請負契約の内容に争いがある場合、見積書や設計図書の内容、交渉経緯(異議の有無等)、請負代金額などを参考に判断されます。また、瑕疵の有無の判断については、一般的施工基準に達しているか否かが一つの基準となります。機能重視の設備等については、設計図面と多少位置が異なるなどしても、機能上問題なければ瑕疵とならないと判断される傾向にあります。一方、施主の要望通りに施工しても、それが機能上、法律上問題となるにもかかわらず、請負業者が注文主に対して問題を指摘せずにそのまま施工したような場合は瑕疵と判断される傾向にあります。
(2022.10.27)