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マンション関係についてのコラム

一般社団法人法の類推適用により総会決議取消ができるか、区分所有者を被告とする訴訟に管理費を充てることができるか等が争われた事案(東京地判令和2年7月28日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者が管理組合との間で、臨時総会議案「弁護士費用支払い承認の件」を承認する旨の決議につき、決議の内容又は方法が法令又は被告の管理規約に違反すると主張して、主位的に、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号の類推によりその取消しを求め、予備的に、同決議が無効であることの確認を求める事案。
 主たる争点は、①一般社団法人法266条1項1号及び2号を類推適用により総会決議の取消しを訴訟提起できるか、②総会決議無効事由(区分所有者の一部を被告とした訴訟の弁護士費用を管理費で負担することについて)があるかである。

2 裁判所の判断

(1)一般社団法人法266条の類推適用により総会決議の取消しを訴訟提起できるかについて

 一般法人法266条1項に基づく決議取消しの訴えは、形成の訴えであると解されるところ、形成の訴えは、その性質上、事実ないし権利関係の変動を画一的に規制する必要がある場合について、法が、対世効を有する判決によって訴訟の目的たる事実ないし権利関係の変動を画一的に生じさせることを規定したものである。このような形成の訴えの特殊性、影響力の大きさに照らすと、形成の訴えを定めている法を類推適用することによって、これを安易に拡張して認めることは許されない。

 さらに、区分所有法の規定をみると、同法3条の区分所有者の団体のうちで法人格を取得した管理組合法人の場合において、一般法人法を一部準用する規定が存在する(区分所有法47条10項)一方、一般法人法266条1項は準用の対象から除外されているから、法は、管理組合が法人となっている場合においても、その決議に一般法人法266条1項が適用されることは予定していないというべきである。
 そうすると、区分所有者を構成員とする団体という点で管理組合法人と類似する性質を有する被告においても、その総会決議について、一般法人法266条1項1号を類推適用してこれを取り消すことは法の予定するところではなく、許されないものと解すべきである。

(2)総会決議無効事由の有無について

 管理組合において行うことができる行為は、本件マンションの「管理組合が管理する敷地及び共用部分等の保安、保全、保守、清掃、消毒及び塵芥処理」や「組合管理部分の修繕」など、分譲共用部分の管理又は使用に関する行為である、本件管理規約30条各号に定められた事項に限られると解される。
 そして、管理組合の集会決議について、区分所有法は決議の無効事由を定めておらず、決議に瑕疵があれば、原則として無効となると解すべきところ、集会決議が無効になれば、管理組合内部のみならず、第三者に対する関係においても影響を及ぼすことになるから、決議の瑕疵が重大でなく、かつ、その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には、当該瑕疵による決議の無効の主張は許されないものと解すべきである。
 本件は、管理組合の構成員の一部が訴訟等の当事者となって紛争が生じた場合の当該構成員個人において訴訟等に要した弁護士費用を管理組合が負担することについての承認決議であるが、当該構成員個人の訴訟費用の負担は、管理規約30条各号に定められた被告において行うことができる行為には含まれないものと解さざるを得ない。そして、管理組合において、その目的の範囲外のために管理費を支出するためには、原則として、当該組合に所属する構成員の全員の同意を要するものと解すべきであるが、本件決議は一定数が不承認であり、全会一致でない以上、本来は不承認の決議がされたものというべきである。そうすると、本件決議には、その決議の方法に重大な瑕疵があり、この瑕疵は決議の結果に影響を及ぼすべきものというべきであるから、本件決議を有効とみることはできない。
 また、本件決議は、その他の支出をまとめて、1つの承認又は不承認の決議を行う形式を取っており、各支出が不可分一体として決議されているというべきであることなどから、本件決議全体の無効を確認するほかないというべきである。

3 コメント

 一般社団法人法の類推適用による総会決議の取消しを否定したこと、総会決議に瑕疵があれば原則無効であるが、決議の瑕疵が重大でなく、かつ、その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には、当該瑕疵による決議の無効の主張は許されないとした点は、従来からの判例を踏襲したものといえます。
 本件で気になる点は、管理組合の複数の組合員に対する訴えの実質が個人的なものではなく、当該組合員らに対してプレッシャーを与えて、総会議決権行使を萎縮させる目的で行ったともとれる集会差止仮処分申立事件であり、管理組合が費用負担の決議をしたのは、当該事件に対応するための弁護士費用であると管理組合が反論した点について、当該仮処分については申立が認められており、管理組合主張の事実は認められないとして、管理組合の主張を排斥した点です。これは、あくまでも管理組合の主張を排斥するための判断ですが、原告側の不当目的が立証されれば、複数区の組合員個人に対する訴えについての弁護士費用を管理費で負担することも認められる余地があるともとれます。

(2022.11.26)

管理組合が区分所有者に対し、管理規約違反を主張してパラボナアンテナの撤去と弁護士費用等を請求し認められた事案(東京地判令和2年8月11日)

1 事案の概要

 マンションの組合が、マンションのバルコニー及びルーフバルコニーの各手摺りに複数の衛星放送受信用パラボラアンテナを設置している区分所有者に対し、管理規約に違反していることを理由として、各パラボラアンテナの撤去と管理規約に基づき違約金として弁護士費用及び差止め等の諸費用を請求した事案。

2 裁判所の判断

(1)パラボナアンテナ等の撤去について

 マンションにおいては、住戸に接するバルコニーについて、区分所有者に専有使用権が認められ、区分所有者は通常のバルコニーとしての用法でこれを使用することができるものの、管理組合から管理上必要な指示がある場合は、それに従わなければならないとされていること、バルコニー及びルーフバルコニーに区分所有者が取り付けたパラボラアンテナ(本件アンテナを含む。)については、その部品の一部が落下したことがあることがうかがわれ、その結果、管理組合は、区分所有者に対し、本件アンテナ等の設置行為が管理規約に違反するとして本件アンテナ撤去を求めたが、区分所有者がこれに応じなかったことから、臨時総会決議を踏まえて、本件アンテナの撤去を求める訴訟を提起したことが認められる。そうすると、管理組合の本件アンテナの撤去要求は、組合員である本件建物居住者の安全を図るためなどからされたものと解することができ、その管理上必要な指示と考えられることから、管理組合は、本件規約に基づき、本件アンテナの撤去を求めることができると認められる。

(2)違約金としての弁護士費用等の請求について

 管理規約により、理事長は理事会の決議を経て、マンションの区分所有者に対し、管理規約等に違反する行為について必要な措置を請求するため訴訟その他の法的措置を追行することができ、この場合、相手方に対し、違約金としての弁護士費用等の諸費用を請求することができる。そして、区分所有者がバルコニーに本件アンテナを取り付けた行為が、管理規約に違反しており、そのため、管理組合が、訴訟代理人に、本件アンテナの撤去を求める訴訟の提起等を委任し、着手金、消費税並びに実費経費として57万円を支払い、さらに、その後に中間金として33万円を支払ったことが認められるから、管理組合は、管理規約に基づき、弁護士費用の既払分を違約金として請求できると解することが相当である。

3 コメント

 管理規約の定めに基づく請求であり、パラボナアンテナの撤去は、部品の一部が落下した事故があったことから認められ、弁護士費用等については管理規約に定めがあることから、既払金(着手金、実費、中間金、消費税)が認容されました。なお、管理組合も報酬分を請求していないことから、弁護士の報酬金については認容していません。

(2022.11.23)

管理組合の総会決議の無効確認及び決議取消について争われたがいずれも否定された事案(東京地判令和2年8月18日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者の一部の者により構成される管理組合に対し、組合員である区分所有者が、通常総会議案のうち、一部の議案に係る決議が、管理組合の目的外の行為である又は管理組合の管理規約に違反しているなどとして、主位的には、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号(類推)に基づく本件各決議の取消しを求め、予備的には、本件各決議の無効の確認を求めた事案である。

2 裁判所の判断

(1)一般社団法人法266条1項1号及び2号の類推適用の可否について

 一般社団法人法266条1項に基づく取消しの訴えの性質は形成の訴えであるところ、形成の訴えは、権利関係の変動を当事者間に限らず第三者との関係においても画一的に生じさせるという点で影響力が大きく、特に訴えをもって裁判所に権利関係の変動を求めていることができる旨を法が定めている場合に限り提起できるものである。このような形成の訴えの影響力の大きさや特殊性に照らすと、形成の訴えを安易に類推適用することは相当ではない。そして、区分所有法が同法3条の区分所有者の団体のうち法人格を取得した管理組合法人について一般社団法人法を準用する規定(区分所有法47条10項)には、一般社団法人法266条1項が含まれていないことからしても、管理組合について同項を適用することは予定されていないものと解される。したがって、一般社団法人ではない被告に同項を類推適用し本件各決議を取り消すことはできない。

(2)管理費等収支決算報告案及び監査報告案等の承認決議無効の確認の利益について

 「平成29年度 管理費等収支決算報告及び監査報告承認の件」、「建替え検討に係る弁護士費用支払い承認の件」、「平成30年度 管理費等収支予算案承認の件」に関する当事者間の紛争は、より直截には、管理組合による理事らや区分所有者ら個人に対する弁護士費用相当額の立替金返還請求あるいは不当利得返還請求等によってされるべきであり、仮に、管理組合の現在の多数派による上記各請求権の行使が事実上望めない場合には、組合員による理事らに対する責任追及という形でされるべきであり、確認の利益はない。

(3)「建替え検討に係る検討予算承認の件」の確認の利益について

 建替え検討の進捗のための裁判手続対応や第三者の意見取得等の費用として、上限を850万円とする予算の承認を求めるものであるがが、そもそも、どのような支出が「建替え検討の進捗のため」の費用に当たるかは、具体的な支出の費目について、個別に判断するほかないものであり、仮に、個別の費目について「建替え検討の進捗のため」に当たらず支出が許容されないものがあれば、より直截には、個別に支払を拒否したり、既払金の返還を求めたりすればよいものであるから、同議案を承認する決議の無効を確認したとしても、法律関係の存否を最も直接的かつ効果的に確定することにはならず、確認の履歴はない。

3 コメント

 区分所有法は、総会決議の手続き違反の効果や決議の取消について定めておらず、一般社団法人法を類推して法的主張がなされる場合があります。本件では、取消の訴えについて、類推適用を否定しました。

(2022.11.23)

区分所有法7条の先取特権に基づく配当要求に時効中断効を認めた最高裁判例(最判令和2年9月18日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの団地管理組合法人が、専有部分を担保不動産競売で取得した区分所有者に対し、建物部分の前の共有者が滞納していた管理費等の支払義務を当該区分所有者が承継したとして、その管理費等の支払を求めた事案。
 主たる争点は、管理組合法人が行った先取特権に基づく本件配当要求により、管理費等の一部について消滅時効の中断の効力が生じている否かである。

2 裁判所の判断

  区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項)、区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は、上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合と同様、上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。また、上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには、配当要求債権につき上記先取特権を有することについて、執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(以下「法定文書」という。)により証明されたと認められることを要するのであって、上記の証明がされたと認められない場合には、上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。これらは、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。
 以上に鑑みると、不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押えに準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り、債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。

(2022.11.20)

区分所有者が管理組合に対し、総会決議が決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であると主張して争った事案(東京地判令和2年9月10日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの区分所有者が,管理組合に対し,管理規約の変更(理事の総数や選任要件等の定め)についての総会決議が、管理規約に定めた決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であり、無効な変更後の管理規約に基づき選任された理事やその理事により招集された総会の決議も無効であるあるとして争った事案。
 主たる争点は、①決議の瑕疵が治癒されたか、②総会決議無効の主張が権利濫用かである。

2 裁判所の判断

(1)決議の瑕疵が治癒されたかについて

 元々の決議が無効ないし不存在であるとすると、無効ないし不存在の変更後の理事の定員及び資格要件に沿って選任された理事及び理事によって互選された理事長は適法に選任された者ではないことになるところ,招集権のない者によって招集された集会は,区分所有者全員が出席し,開催を承諾した等の特段の事情がない限り,区分所有法上の集会と評価することはできないから,同集会でされた決議も特段の事情がない限り,不存在と評価すべきである。
 そして,管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきである。
 本件では、本件では、議決権要件は満たしていたものの頭数要件は満たしておらず、管理規約に頭数要件を加えた趣旨が多くの床面積を持たない少数議決権者の権利を一定程度保護することにあることからすればこれを尊重すべきであり、頭数として不足していた人数が3名であったからといって,軽微な瑕疵であるとはいえないとした。そして、議案の内容が合理的であり、当該決議から13年間にわたって当該決議をもとに総会が運営されてきたこと、臨時総会において当該決議の問題がその後の議決等に影響が与えるものではないことを確認する議案が過半数で可決されているとしても、瑕疵は重大であることから、瑕疵は治癒されないとした。

(2)総会決議無効の主張が権利濫用かについて

総会決議無効を主張している区分所有者らは、当初の総会決議で委任状を出すなどして、総会後も決議に無効事由があったことも知る機会があったのであるから、12年も経ってから総会決議無効を主張するのは権利の濫用に当たるとした。

3 コメント

 管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきであるとした点が参考となります。
 本件は、決議要件を満たしていなかった議案の内容が理事の人数や就任条件に関するものであったから、瑕疵は重大で治癒されないとしたものと思われます。

(2022.11.19)

マンションの賃貸人が漏水事故により損害を被ったとして賃貸人、管理組合及び管理会社に対して損害賠償請求した事案(東京地判令和2年9月25日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの一室の賃貸人が、建物における漏水事故(配管内の異物混入を原因とする)について、賃貸人に対し、債務不履行に基づき、管理組合に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、管理会社に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、それぞれ損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、賃貸人に対し、予備的に、不当利得返還請求権に基づき、賃料相当額の返還を求める事案。

2 裁判所の判断

(1)管理組合及び管理会社の民法709条の責任について

 漏水事故が発生する以前に配管内に異物が混入していることをうかがわせるような不具合が生じた等の事情は認められないから、管理組合又は管理会社がマンションの共用部分の修繕、保守点検等として、配管内の状態を確認する検査を行う義務を負っていたということはできず、異物を発見することができなかったとしても、このことにより配管の管理を怠ったということはできず、不法行為責任は成立しない。
 なお、管理規約上、給排水衛生設備は、専有部分に属さない建物の附属部分として、共用部分に属するものとされている。

(2)管理組合及び管理会社の民法717条の責任について

 管理組合は、区分所有法3条の管理組合として、マンションの共用部分を管理しているものの、共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、マンションの区分所有者全員がこれを占有しているというべきであって、管理組合が上記共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできない。
 同様に、管理会社は、管理組合からマンションの共用部分の管理を委託されているものの、管理組合が共有部分を占有しているといえない以上、被管理会社もこれを占有しているということはできない。
 したがって、配管の設置又は保存に瑕疵があり、これにより事故が生じたとしても、管理組合や管理会社がこれを占有していたということはできず、工作物責任は負わない。

(3)賃貸人の債務不履行について

 事故は、配管の内部に本件角材が混入し、その周囲に本件配管の内部を流れる物体が詰まり、これらが配管を塞いだことを原因として発生したものと認められるところ、配管に角材が混入した経緯は不明であって、管理組合又は管理会社が配管の管理を怠ったということはできない上、配管は共用部分に属し、賃貸人は、配管を直接管理し得る立場にはない。また、事故が発生した後、建物について修繕を行う前提となる建物の調査が行われるまでに7か月余りが経過しているところ、賃借人は、賃貸人及び管理会社の各担当者が調査への協力を要請しても、これに応じなかったことが認められ、そのために賃貸人が建物の修繕を行うことができなかったものというべきであるから、事故の後、直ちに修繕が行われなかったことについても、賃他人が修繕義務を怠ったということはできない。以上により、賃貸人が債務不履行責任を負うということはできない。

3 コメント

 本件は、共用部分である配管のトラブルが原因となって専有部分に漏水等の事故が生じた事案です。このような場合、裁判例では、区分所有者が管理組合に対し、不法行為や管理組合との委任契約に基づいて損害賠償請求をするという形で争いとなりますが、区分所有者と管理組合に委任契約があるかについては明確に判断しておらず、区分所有法3条、19条、23条や管理規約ともに管理組合が負担すべきとしています。ただ、判示内容を見る限り、管理組合に過失がない場合にも管理組合が賠償責任を負うかについては明確ではありません。もっとも、実際は、保険対応で処理される場合が多いと思われます。
 本件は、専有部分を賃貸にしていたので、賃借人が賃貸人の債務不履行責任、管理組合及び管理会社の不法行為責任及び工作物責任を追及する形をとっています。もっとも、配管トラブルの責任が施工業者にあると考えられ、管理組合や管理会社に過失は認められないことから不法行為責任は負わず、管理組合はマンションの共用部分を管理していますが、共用部分はマンションの区分所有者全員が占有しているというべきであるから、管理組合は占有者に当たらず工作物責任を負わないとされました(東京高判平成29年3月15日同旨)。なお、管理組合が工作物責任を負う旨判示した裁判例もあります。

(2022.11.19)

管理組合が、区分所有者に対し、改定後の管理規約に基づき、管理費や違約金等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年10月27日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの管理組合が、マンションの居室の区分所有者に対し、従前の組合の規約を改定する組合総会の決議に基づき、管理費及び修繕のための積立金の未払分の支払を求めるとともに、同未払分について確定遅延損害金及び現行の規約に基づく年14パーセントの割合による遅延損害金(確定遅延損害金を含む。)並びに現行の規約に基づく違約金の支払を求めた事案。
 主たる争点は、①区分所有法31条1項後段の同意の要否、②違約金の負担についてである。

2 裁判所の判断

(1)区分所有法31条1項後段の同意の要否について

 区分所有法31条1項後段の趣旨は、規約の設定、変更等が区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による総会の決議によってされ(同項前段)、多数者の意思によって特定の少数者のみに不利益な結果をもたらす規約の設定、変更等が実現するおそれがあることから、そのような事態の発生を防止することにあり、「特別の影響」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれにより受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量して、当該区分所有者が受忍すべき程度を超える不利益を受けると認められる場合を指すものと解される。
 本件改定により、被告である区分所有者の管理費等は、他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたが、本件改定の対象となった管理費等は、共用部分の管理に関する必要経費に充てるために組合員に課されたものといえる。共用部分に関し、区分所有法は、①14条1項において、各共有者の共用部分の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による旨を、②19条1項において、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じる旨をそれぞれ定めている。これらの規定によれば、同法は、共用部分の負担につき、各区分所有者が各自の専有部分の床面積の割合に応じて引き受けることをもって、それぞれに応分の負担をさせる実質的公平にかなう原則的な取扱いとしたものと解される。そうすると、各区分所有者一律に同額の管理費等を課していた従前の規約は、専有部分の床面積が比較的少ない区分所有者に実質上過度の負担を課していたという問題点があったということができる。
 したがって、従前の規約を改めて管理費等の額を各専有部分の登記簿面積に応じた按分額に改定する旨の本件改定は、これまでの問題点を是正し、区分所有法の原則的な取扱いを採用するものであるから、必要性、合理性とも十分に認められるものというべきである。
 そして、本件改定による変更後の規約は、被告のみならず全区分所有者に適用され、上記のとおり被告の管理費等が他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたのは、被告の専有部分の登記簿面積が他の区分所有者に比して広いことによる必然の結果にほかならず、不合理ということはできない。本件改定による被告の管理費等の増額は、上記の本件改定の必要性、合理性と比較衡量して、被告が受忍すべき限度を超える不利益に当たらないと考える。
 以上によれば、本件改定は、被告の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、よって、本件改定に被告の承諾は要しない。

(2)違約金の負担について

 区分所有者である被告は、管理規約の定めに基づき、違約金として、弁護士費用、督促及び徴収の諸費用に相当する額の支払義務を負う。なお、原告は、区分所有者は、代理人弁護士らとの委任契約に基づき、本件訴えにより得られる経済的利益の16パーセントに相当する額の報酬の支払義務を負うが、同報酬はいまだ支払われていないものと推認され、現時点において同報酬を違約金の算定に含めることはできない。

3 コメント

 本件は、事実上、一部の区分所有者の管理費等が増額されたので、一部の区分所有者に特別の影響を及ぼすとも思えるが、規約変更の必要性、合理性と不利益を受ける区分所有者の不利益の程度を比較考量して「特別の影響」を及ぼすものではないと判断しており、妥当な判断と考えます。
 違約金については、管理規約で弁護士費用等を負担させる旨定めていましたが、報酬金については費用がまだ発生していないとして請求を認めませんでした。報酬額は、弁護士会の基準に基づいた金額であり、不相当に高額ではないことから、認められてしかるべきと考えます。実際に、多くの裁判例で認められています。なお、報酬金を認めた裁判例の中には、裁判提起に関する総会決議で予備費として報酬金を計上していた事案もあり、そうした方法をとることにより認められ可能性が高くなるかもしれません。

(2022.11.12)

区分所有者が管理組合の管理者の解任を請求した事案(東京地判令和2年12月2日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの区分所有者が管理組合の管理者に区分所有法25条2項所定の解任事由があると主張して,被告を管理組合の管理者から解任することを求めた事案。
 主たる争点は,管理者に善管注意義務違反があったかであるが,具体的には,①バルコニーの壁面穴の放置により浸水被害を生じさせたか,②不正な耐震診断結果報告と耐震補強設計実施業務の立ち往生があったか,③管理室のエアコンの工事に関しバックマージンをもらったかである。

2 裁判所の判断

 区分所有法25条2項は,管理者に不正な行為その他その職務を行うに適しない事情があるときは,各区分所有権者は,その解任を裁判所に請求することができると定めているところ,ここにいう不正な行為とは,管理者の善管注意義務に違反して区分所有者の全部又は一部に損害を被らせる故意による行為をいい,その職務を行うに適しない事情とは,職務の適正な遂行に直接又は間接に影響を及ぼす事情が存在し,それが重大なものであることをいうものと解するのが相当である。
 バルコニーの壁面の穴による漏水事故については,水事故以前に瑕疵の存在を認識していたことや,瑕疵を認識しつつ,これを故意に放置していたという事実を認めるに足りる的確な証拠がないとして,何らかの善管注意義務が発生していたとしても,管理者がこれに故意に違反していたことを認めることはできず,不正な行為をしたことを認めることはできない。そして,耐震診断や耐震補強,バックマージンについても,不正と認める証拠がないとして,善管注意義務違反を否定した。
 なお,管理規約上,マンションの住居部分のバルコニーは共用部分ではあるものの,住居部分所有の組合員は,それぞれの住居に付属するバルコニーを無償で専用使用することができること,無償で専用使用することができる条件として,この部分の維持管理の責任を負うものとされており,バルコニーの普通修繕費は専用使用しているそれぞれの組合員の負担するものとされている。本件の水漏れは,排水溝の掃除がされておらず,バルコニーに水が溜まり,エアコン用のスリーブから室内に水が入り階下に漏水したというものであった。

2 コメント

 管理者の解任請求は、区分所有法25条2項により、各区分所有者が請求することができますが、管理者である理事長が不正行為を行った場合等に損害賠償請求する場合は、各区分所有者が個別に行うことはできないと解されています。その場合、管理組合ないし管理者が原告となる必要がありますので、当該理事長を解任し(理事会で解任、あるいは総会で理事を解任)、新たな理事長を選任した上で訴訟を提起することになります。

(2022.11.10)

管理組合が変更後の管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という。)と従前の管理費等の差額を支払わない区分所有者らに対し、差額の支払いと違約金(弁護士費用)等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年12月16日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有者らが管理組合に対し、マンション管理費等の額を変更する臨時総会の決議無効確認訴訟を提起したのに対し、管理組合が当該区分所有者ら(変更後の管理費等と従前金額との差額を支払わない組合員である区分所有者ら)に対し、差額管理費等・確定遅延損害金、管理規約所定の違約金(弁護士費用相当額)並びに差額管理費等に対して支払済みまで管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案。
 主たる争点は、①管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項か、②管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項か、③違約金の額である。

2 裁判所の判断

(1)管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項かについて

 管理規約上、管理費等の額及び規約の変更について、いずれも総会の決議を経なければならないことを定めているが、規約の変更に関する総会の議事については特別決議で決するものと定める一方、管理費等の額の変更に関する総会の議事については特別決議の対象事項としていない。
 また、管理規約の管理費に関する条項は、管理費の額について具体的に定めた別表を引用する形式を取らず、規約本文と別表とが明確に分離されていること、これまでに数次にわたり、規約の変更を伴わずに管理費等の変更に関する議事が行われていたなど、規約の変更について管理費等の額の変更とは異なる扱いがされていたことなどから、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらず、過半数の賛成により、普通決議をもって行うことができるものと解すべきである。

(2)管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項かについて

 管理規約上、規約の制定、変更又は廃止が一部の組合員に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならないと定めるが、本件決議は、管理費等の額の変更に関する議事であると認められ、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらないものと解されるから、本件決議について、当該条項の適用はないとした。
 なお、「特別の影響」については、管理費等を修正する必要性及び合理性と、これによって受ける区分所有者らの不利益とを比較して、当該区分所有者らの受忍すべき程度を超える不利益を認められる場合であるかににより判断されるべきであるところ、管理費については、各区分所有建物や区分所有者の個性に由来する要因をなるべく捨象し、一律に各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例させて、管理費の額を負担させることはそれ自体合理的であり、修繕積立金については、共用部分を所有することによる負担であり、区分所有建物の資産価値及び建物寿命を維持するための基金となる積立金であって、管理組合が消滅する場合には、その残余財産を構成する修繕積立金について、管理規約上、共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属することとされているから、各区分所有者の共有持分割合に応じて修繕積立金を負担させることは、一層合理性があるとした。そして、区分所有者らの不利益の程度については、共用部分の共有持分割合を大幅に下回る低額にとどまっていた当該区分所有者らの管理費等について、その共有持分割合に応じた金額に変更することは、富樫区分所有者らに不利益な内容ではあるが、区分所有関係の実態に照らし、各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例した管理費等の額とすることに合理性があることとの比較において、不利益は当該区分所有者らの受忍すべき限度を超えるものとは認められない。したがって、類推適用もされない。

(3)違約金の額について

 弁護士費用として総会で可決承認された着手金、報酬金(予備費)、実費(予備費)は、差額管理費の額、本訴への対応に加え、反訴提起が必要となったことなどを考慮すれば、報酬額として相当であると考えられるとして、総会での可決承認額をもって、違約金としての弁護士費用と認めた。

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 管理費や修繕積立金等の変更は、「共有部分の管理に関する事項」に該当し、総会の普通決議で変更可能と解されています(区分所有法18条1項)。一方、管理規約の変更は、特別決議が必要であることから(区分所有法31条1項)、管理費や修繕積立金に関する定めの変更が管理規約の変更に当たるか否かにより、決議方法が異なります。
 具体的には、管理規約に具体的に管理費の額を定めている場合や管理規約で管理費を定めた別表などを引用している場合は、管理費の変更は管理規約の変更となります。一方、管理規約では具体既な金額を定めず、別表なども引用していない場合は、管理規約の変更に当たらないことになります。なお、管理規約で別表を引用した事案で、普通決議で足りるとした裁判例もあります。
 本判決は、管理規約において、規約の変更と管理費の変更を区別していること、管理費に関する規定と管理費の額を定めた別表は明確に区別されていること、管理費の変更についてこれまでも規約の変更として扱われてこなかったことなどから、管理費の額の変更は規約の変更に当たらないとしています。
 「特別の影響」については、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」と同様の解釈の下で判断しています。
 違約金としての弁護士費用については、訴訟提起時は報酬の額や実費については確定していませんが、総会決議で予備費として計上した概算額についてそのまま認めています。

(2022.22.5)

理事に立候補したところ、理事会により不承認とされた区分所有者らが、不承認決議をした理事及び管理会社に対し、不法行為に基づく損賠償請求をした事案(令和2年12月4日)

1 事案の概要

 マンション区分所有者らが、マンション管理組合法人の理事に立候補したところ、理事らが正当な理由なく同人らを同管理組合法人の理事の立候補者として承認せず、役員立候補権を侵害したなどと主張して、理事らに対し、不法行為に基づき損害賠償請求するとともに、理事らに対し適切な助言等をしなかったことなどが不法行為に当たると主張して、同マンションの管理業務の委託を受けている管理会社に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をした事案。

2 裁判所の判断

(1)理事らの不承認決議が不法行為に当たるかについて

 理事への立候補について理事会の承認を必要とするとした管理規約の改正条項の趣旨は、暴力団等の反社会的組織の構成員や、成年被後見人であるなどの本件管理組合の役員としての適格性に欠ける客観的な事情がある者に限り、理事会が立候補を承認しないことができるというものであり、その限度で有効であると解するのが相当である。けだし、区分所有法25条1項、49条8項及び50条4項によれば、管理組合法人の役員の選任に関しては、規約に別段の定めがない限り集会の決議によって定めることとされているが、同法30条3項によれば、規約は区分所有者間の利害の衡平が図られるように定めなければならないとされており、改正条項について理事会の広い裁量を認めれば、理事らにおいて自らと意見の一致しない区分所有者の立候補を阻止することができ、当該区分所有者は、その役員としての適格性の是非を集会において他の区分所有者によって判断されて、信任、選任される機会を失う事態になるところ、このような事態が区分所有法30条3項にいう区分所有者間の利害の衡平を害するものであることは明らかだからである。

 本件では、上記不承認となる場合に当たらず、不承認決定は、理事会の裁量の範囲を逸脱、濫用するものとして違法であったと認めるのが相当である。もっとも、本件改正条項が本件管理組合の総会の決議により承認されて設けられたものであり、管理組合の理事としては、これに従って理事会を運営すべき義務を負っていたものであるところ、改正条項においては、理事会が立候補者を役員候補者とすることの承認をするか否かについての基準について明示されておらず、理事会の裁量を制限するような定めはなかったこと、不承認決定の時点においては、改正条項が上記の趣旨の規定であることがいまだに明らかにされるには至っていなかったこと、理事らは法律専門家でないことはもちろん、マンション管理について専門知識を有する者でもないことに照らすと、理事らにおいて、改正条項によって理事会に対して許容される限度よりも広範な裁量権が与えられており、立候補者に客観的に適格性を欠く事情が存在する場合でなくても承認しないことができると誤信したことをもって、過失があるとまではいえないとし、不法行為が成立するとは認められないとした。

(2)管理会社の不法構成責任について

 管理会社は、管理組合との間の管理委託契約に基づいて、マンションの管理業務を受託し、事務管理業務として、理事会支援業務及び総会支援業務を行っており、その中には、理事会の開催、運営支援として、管理組合の求めに応じた理事会議事に係る助言や資料の作成、理事会議事録の作成といった事務も含まれているのであるから、管理組合の社員が理事会に出席し、理事会の資料を作成することに従事していたとしても、それは、管理業務の一環として行っていたにすぎず、これらの行為から当該社員が理事会の議論を主導していたと評価することはできない。また、管理会社は、管理組合から管理業務の委託を受け、管理委託契約上、管理組合の求めに応じて理事会議事や総会議事に関する助言が定められていたにすぎないのであるから、管理組合の業務執行に属する不承認決定に関して、その撤回を理事会に助言する義務があったということはできず、その他、不承認決定に関する指導・助言義務違反があったことは認められず、不法行為は成立しない。

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 理事の立候補について理事会の承認を要するとした管理規約について限定解釈した上で有効とし、理事会の不承認について裁量権の逸脱・濫用があったと判断しましたが、理事が法律の専門家でなく、管理規約に基準が明確に定められていなかったことなどから、過失はないと判断しました。管理会社については、理事会の補助的立場であることから、不承認決定について撤回を助言するなどの義務はなく、違法性はないとしました。本事案は、一般的な事件ではありませんが、管理規約が区分所有法30条3項の定めに従う必要があるとして、管理規約の改正条項について限定解釈した点が参考となります。

(2022・11・8)