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マンション関係についてのコラム

管理組合が変更後の管理費及び修繕積立金(以下「管理費等」という。)と従前の管理費等の差額を支払わない区分所有者らに対し、差額の支払いと違約金(弁護士費用)等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年12月16日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有者らが管理組合に対し、マンション管理費等の額を変更する臨時総会の決議無効確認訴訟を提起したのに対し、管理組合が当該区分所有者ら(変更後の管理費等と従前金額との差額を支払わない組合員である区分所有者ら)に対し、差額管理費等・確定遅延損害金、管理規約所定の違約金(弁護士費用相当額)並びに差額管理費等に対して支払済みまで管理規約所定の年15%の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案。
 主たる争点は、①管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項か、②管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項か、③違約金の額である。

2 裁判所の判断

(1)管理費の変更が規約の変更に当たり特別決議を要する事項かについて

 管理規約上、管理費等の額及び規約の変更について、いずれも総会の決議を経なければならないことを定めているが、規約の変更に関する総会の議事については特別決議で決するものと定める一方、管理費等の額の変更に関する総会の議事については特別決議の対象事項としていない。
 また、管理規約の管理費に関する条項は、管理費の額について具体的に定めた別表を引用する形式を取らず、規約本文と別表とが明確に分離されていること、これまでに数次にわたり、規約の変更を伴わずに管理費等の変更に関する議事が行われていたなど、規約の変更について管理費等の額の変更とは異なる扱いがされていたことなどから、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらず、過半数の賛成により、普通決議をもって行うことができるものと解すべきである。

(2)管理費の変更が区分所有者に「特別の影響」を及ぼし、当該区分所有者の同意を要する事項かについて

 管理規約上、規約の制定、変更又は廃止が一部の組合員に特別の影響を及ぼすときは、その承諾を得なければならないと定めるが、本件決議は、管理費等の額の変更に関する議事であると認められ、管理規約上、管理費等の変更に関する総会の議事は、規約の変更に関する総会の議事に当たらないものと解されるから、本件決議について、当該条項の適用はないとした。
 なお、「特別の影響」については、管理費等を修正する必要性及び合理性と、これによって受ける区分所有者らの不利益とを比較して、当該区分所有者らの受忍すべき程度を超える不利益を認められる場合であるかににより判断されるべきであるところ、管理費については、各区分所有建物や区分所有者の個性に由来する要因をなるべく捨象し、一律に各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例させて、管理費の額を負担させることはそれ自体合理的であり、修繕積立金については、共用部分を所有することによる負担であり、区分所有建物の資産価値及び建物寿命を維持するための基金となる積立金であって、管理組合が消滅する場合には、その残余財産を構成する修繕積立金について、管理規約上、共用部分の共有持分割合に応じて各区分所有者に帰属することとされているから、各区分所有者の共有持分割合に応じて修繕積立金を負担させることは、一層合理性があるとした。そして、区分所有者らの不利益の程度については、共用部分の共有持分割合を大幅に下回る低額にとどまっていた当該区分所有者らの管理費等について、その共有持分割合に応じた金額に変更することは、富樫区分所有者らに不利益な内容ではあるが、区分所有関係の実態に照らし、各区分所有者の専有面積ないし共有持分割合に比例した管理費等の額とすることに合理性があることとの比較において、不利益は当該区分所有者らの受忍すべき限度を超えるものとは認められない。したがって、類推適用もされない。

(3)違約金の額について

 弁護士費用として総会で可決承認された着手金、報酬金(予備費)、実費(予備費)は、差額管理費の額、本訴への対応に加え、反訴提起が必要となったことなどを考慮すれば、報酬額として相当であると考えられるとして、総会での可決承認額をもって、違約金としての弁護士費用と認めた。

3 コメント

 本判決は、管理規約において、規約の変更と管理費の変更を区別していること、管理費に関する規定と管理費の額を定めた別表は明確に区別されていること、管理費の変更についてこれまでも規約の変更として扱われてこなかったことなどから、管理費の額の変更は規約の変更に当たらないとしています。
 「特別の影響」については、区分所有法31条1項後段の「特別の影響」と同様の解釈の下で判断しています。
 違約金としての弁護士費用については、訴訟提起時は報酬の額や実費については確定していませんが、総会決議で予備費として計上した概算額についてそのまま認めています。

(2022.11.5)

マンション管理組合法人が長期間管理費などを滞納している区分所有者に対し、区分所有法59条1項の競売請求等をした事案(東京地判令和2年12月22日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの管理組合法人が、区分所有権者である会社が長期にわたり管理費及び修繕積立金並びに電気料金及び敷地の公租公課に係る立替金の支払を滞納し,区分所有者の共同の利益に反する行為により区分所有者の共同生活上の障害が著しいとして,当該会社と当該会社から使用貸借してこれを占有する者に対し,上記障害を除去するため,当該会社に対し,区分所有法59条1項に基づき,本件物件の競売を請求するとともに,占有者に対し,区分所有法60条1項に基づき,当該会社と占有者との間のマンションの使用に関する使用貸借契約の解除及び本件建物の引渡しを求めた事案。
 主たる争点は、区分所有法59条1項及び同法60条1項の要件を満たしいるか否かである。

2 裁判所の判断

 管理費等並びに固定資産税及び電気料金の立替金等について,既に支払いを命ずる判決が確定しているにもかかわらず、その後も滞納金を完済することはなく,滞納金が合計1071万1020円に上っている。このように,長年にわたり管理費等の支払を滞納し,その滞納額が極めて多額に上ることに鑑みれば,滞納金の未払は,建物の管理又は使用に関するマンションの区分所有者の共同の利益に反するものであり,これによる共同生活上の障害が著しいものということができる。
 そして,当該区分所有建物には債権額を2100万円とする抵当権が設定されているのに対し,当該競売事件における当該区分所有建物の評価額は2156万円にとどまると認められることを勘案すれば,マンション管理組合が判決や滞納金に係る先取特権(区分所有法7条)に基づき競売を申し立てたとしても,無剰余により取り消される見込みが高いというべきである。そうすると,区分所有法59条に基づく区分所有権の競売の請求及び区分所有法60条に基づく占有者に対する引渡し請求以外の他の方法によっては,上記障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であると認められる。
 以上の通り判断し、マンション管理組合法人の請求を認めた。

3 コメント

 区分所有法59条の競売の申立は、区分所有者が他の区分所有者の共同の利益を著しく障害し、他の方法(区分所有法57条1項の共同利益は違反行為の停止請求、同法58条1項の専有部分の使用禁止請求、同法7条の先取り特権の実行としての専有部分の競売等)によっては障害の除去が出来ない場合に、他の区分所有者全員又は管理組合法人が、その区分所有者が所有する区分所有建物(敷地利用権を含む)の競売を請求できると規定しています。
 そして、本規定による競売は,競売手続の円滑な実施及びその後の売却不動産をめぐる権利関係の簡明化ないし安定化,買受人の地位の安定化の観点から,民事執行法59条1項が適用され,区分所有権の上に存する担保権が売却によって消滅し、民事執行法63条は適用されず無剰余取消がされることはないと解されており(東京高判平成16年5月20日)、本判決も同様の判断をしています。もっとも、無余剰であれば、競売代金から滞納分を回収することができませんが、最終的には、区分所有法8条により管理費等の支払い義務を承継することになる新しい区分所有者から回収することになります。

(2022.11.4)

管理組合が管理費の滞納のある区分所有者に対し、滞納している管理費及び管理規約に定めた違約金等並びに管理費の将来請求をした事案(東京地判令和3年1月22日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの管理組合が、管理費の滞納のある区分所有者に対し、管理規約に基づき、未払管理費等と管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金並びに違約金(弁護士費用、督促費用等)及びこれに対する民法所定の遅延損害金の連帯支払を求めると共に、今後到来する管理費等及びこれに対する管理規約所定の年18%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)違約金等の認識の有無が請求権に影響を及ぼすかについて

 管理規約は、マンションの区分所有者間の権利義務関係を定めるものであり、区分所有者らの認識の有無に関わらず、建物の区分所有権を取得した者にも当然に効力がおよぶものである(区分所有法46条1項)から、遅延損害金や違約金の定めについても効力が及ぶとした。

(2)将来に履行期限が到来する管理費等について

 管理を5年程滞納し、弁護士の督促にもかかわらず、わずかな金額しか支払いをせず、その後も滞納していることなどから、今後も管理費等を滞納するおそれは高く、そうなると、管理組合としてはまたしても費用をかけて管理費等の支払を求める法的措置を採らなければならない状況に陥ることが予想されるのであるから、管理組合において、当該区分所有者が建物の区分所有権を喪失するまでの将来の管理費等の支払について、予め給付判決を得ておく必要が認められるとし、当該区分所有者が本件建物の区分所有権を喪失するまで、毎月、指定日限り、管理費及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年18%の割合による遅延損害金の支払義務を負うとした。

(3)既払管理費の充当関係について

 後れて支払った管理費は、法定充当(民法491条1項)と異なる合意はないから、法定充当に基づいて遅延損害金に充当する。

3 コメント

 管理費の滞納が長期にわたり、督促に誠実に応じなかったことから、今後の管理組合のリスクを踏まえ、将来請求までみとめられました。

(2022.9.2)

管理組合が、管理規約に基づいて、区分所有者及び占有者に対し、占有者が建物内での犬の飼育の差止めと排除を求めるとともに、管理規約に基づく違約金を求めた事案。(東京地判令和3年1月14日)

1 事案の概要

 本件は、管理組合の管理者が、管理規約に基づいて、区分所有者及び占有者に対し、占有者が建物内での犬の飼育の差止めと排除を求めるとともに、管理規約に基づく違約金(弁護士費用等)を求めた事案。

2 裁判所の判断

 占有者が飼育している犬は、管理規約で定めたサイズをオーバーするものであり、規約に違反しているとして、飼育の差し止めと違約金(管理規約で定めた訴訟費用、弁護士費用)の一部の支払いを認めた。

2 コメント

 区分所有者は、アメリカの例などを出し、飼育することについて人格権の主張をしたが、独自の主張として採用されませんでした。また、違約金を一部としたのは、弁護士費用が比較的高額であったからと思われます。

(2022.9.2)

管理組合法人が法人設立前の理事長に対し、不正な支出があったとして債務不履行に基づく損害賠償請求した事案(東京地判令和3年6月25日)

1 事案の概要

 本件は、区分所有建物の管理組合法人である原告が、法人となる前の管理組合の理事長であった者に対し、同人が同組合の経費を不正に支出したこと及び区分所有者に対する管理費等の請求を怠り、請求権を時効消滅させたことにつき、職務を誠実に行う義務に違反した債務不履行があるとして、損害賠償請求した事案。

2 裁判所の判断

 管理組合の理事長(区分所有法上の管理者)は、管理組合に対し、善管注意義務を負い(区分所有法28条、民法644条)、管理規約上も、法令、規約及び使用細則ならびに総会の決議に従い、組合員のため、誠実にその職務を遂行する義務する義務(誠実義務)を負っていたほか、通常総会を招集した上で、毎会計年度の収支予算案を提出し、その承認を得たり、前会計年度の収支決算案を報告し、その承認を得たりする義務を負っていたとし、総会の承認を得ないで、自分の報酬を増額し、コンサルタントやトランクルームと契約してその費用を支払い、外部の者との飲食代や手土産代を支払い、相当性のないタクシー代を支払い、未払管理費の一部について時効中断手続きをとらなかったこと等について債務不履行責任を認めた。なお、元理事長から他の理事等の監視義務違反についても主張されたが、元理事長の責任の有無に影響はないとした。

3 コメント

 理事長は、善管注意義務を負っていますので(区分所有法28条、民法644条)、義務違反があれば債務不履行責任を負うことになります。また、違法行為があれば不法行為責任を負うことになりなす。なお、本件は、債務不履行責任を問われていますので、弁護士費用については請求されていません。

(2022.10.31)

管理規約に定めのあるコミュニティ費の支払い義務の有無が争われた事案(東京地判令和3年9月9日)

1 事案の概要

 本件は,区分所有者の一人が,マンションの管理組合に対し,マンションの管理規約に定めのあるコミュニティ費(マンション内パーティーの費用として使用される)について、コミュニティ脱退届を提出して契約を解除しているため支払義務がないと主張して,契約解除日以降のコミュニティ費に関する債務が存在しないことの確認を求めるとともに,名誉毀損等の不法行為に基づく損害賠償請求等を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)コミュニティ費の支払義務(管理組合の徴収権限)の有無について

 区分所有法30条1項が、管理組合は,建物,その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項について,規約で定めることが可能であると定めており、コミュニティ費については管理規約に規定されていることから、コミュニティ費が,建物,その敷地及び付属施設の管理又は使用に関する事項であるかの検討について検討する必要があるとした。
 そして、コミュニティ費は主にパーティーに支出されており、パーティーは居住者間のコミュニティ形成に寄与し,マンションの治安を維持,ひいてはマンションの資産価値低下を防ぐ効果を持つものとして実施されていると理事会が評価しているところ、パーティーは、自治会や町内会とは異なり、マンションの区分所有者,居住者又はその家族のみが参加可能であり、上記理事会の評価も合理的であるとして、コミュニティ費は管理規約に定めうるものであり(区分所有法30条1項に反しない)、管理組合がコミュニティ費を徴収することは、区分所有法3条に反しないとした。

(2)総会資料の記載内容や本訴訟の期日等の区分所有者への告知が不法行為となるか

 総会資料に記載された内容は、該当する区分所有者の名等を記載せずに,管理組合の見解を示したものに過ぎず、直ちに当該区分所有者の社会的評価が下がるものとはいえず、名誉棄損には当たらないとした。
 訴訟の期日を告知したことについては、マンションの区分所有者らが,管理組合の問題についての議論を公開の法廷で傍聴する意義は認められ,仮に訴訟の弁論を傍聴した者において,当該区分所有者の氏名が把握できたとしても,プライバシーが違法に侵害されたとはいえないとした。

3 コメント

 マンション管理組合は、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理を行うために設置される団体であることから(区分所有法3条、30条1項)、これと関係のない自治会費や町内会費の徴収等について管理規約に定め、これを徴収することはできません(東京簡判平成19年8月7日)。
 本事案は、コミュニティ費が区分所有者間の懇親パーティーに支出されているが、その懇親パーティーがマンションの治安維持に役立ち、マンションの資産価値の低下を防ぐという効果があると評価できることから、管理に関するものであると評価して区分所有法3条、30条1項に反しないと判断しています。
 なお、東京地判令和3年9月29日は、地方自治法260条の2第1項の地縁による団体の認可を受けた団体に対する支払分(会費)について、管理規約に定めて区分所有者から徴収することについて適法としました。これは、同団体が集会室等を区分所有して管理し、総会用の会議場として無償で貸し出したり、区分所有者に安価に貸し出したりするなどしていたことから、町会費や自治会費とは異なり、区分所有の対象となる建物並びにその敷地及び付属施設の管理、使用に関するものと判断したものと考えられます。
 本事案のような区分所有者と管理組合の紛争では、総会資料の記載事項やマンション内掲示板での告知等に関し、区分所有者側から名誉棄損やプライバシー侵害の主張がされることがあります。総会で決議をとるためには事実関係の説明が必要ですので、総会資料での事実説明が違法と評価される可能性は低いですが、その内容によっては違法と評価される可能性も否定できませんので、記載内容が個人情報については慎重に行うべきと考えます。

(2022.10.30)

管理規約に違反して民泊事業を行っていた会社が、これを阻止しようとした管理組合等に対し名誉棄損による損害賠償請求等を求めた事案(東京地判令和3年9月29日)

1 事案の概要

 本件は、分譲リゾートマンションの区分所有者であり、同マンションにおいて住宅宿泊事業又は住宅宿泊管理業を営む会社及び代表者がマンションの管理組合及びその代表理事に対し、会社が営む民泊事業が違法である旨を記載した書面を代表理事らがマンションの区分所有者に送付し、また、会社が極めて悪質な民泊事業者である旨を記載した要望書を代表理事らが観光庁及び新潟県に送付したことが名誉棄損に当たるとして、不法行為に基づく損害賠償請求等を行った事案です。

2 裁判所の判断

(1)区分所有者への書面の送付について

 裁判所は、名誉棄損に関する最高裁の判断基準(下記参照)に従い、次のとおり判断しました。
 まず、マンションの区分所有者らに対して書面を送付した書面の内容は、会社の行為が違法であるとの法的見解であり、ある事実に対する意見ないし論評に当たるとし、管理規約に違反する民泊行為の差止等の訴訟提起に関する総会決議の資料として送付したのであるから、管理組合ひいてはマンションの関係者の利害に影響する公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的は専ら公益を図ることにあったとし、各種証拠から、会社側が行っていた民泊行為について真実(少なくとも信じるについて相当性がある)であるとし、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではないから不法行為を構成しないと判断しました。

(2)観光庁などへの要望書の提出について

 上記同様に最高裁の判断基準に基づいて、観光庁等への要望書に記載した「極めて悪質な民泊事業者」との記載については、具体的事実を前提とした意見の表明ないし論評であるが、要望書は観光庁等へ提出されたものであり、他人に伝播する可能性があったと認めるに足りる証拠はないから、会社の社会的評価を低下させる事実又は意見を流布したとはいえないとして、不法行為を構成しないと判断しました。なお、区分所有者の書面送付の場合と同様に具体的事実認定の下、公共性・公益性、真実性等も認めています。

3 コメント

 区分所有者の管理規約違反行為に対処するための総会開催に際し、招集通知に違反行為の具体的事実やその法的評価を記載することについて公共性・公益性が認められるものと考えられますが、本件のように名誉棄損に当たるとして争われることがありますので、記載内容は慎重に検討する必要があります。なお、マンションの掲示板の記載内容について名誉棄損が争われる場合もあります。

※名誉棄損に関する最高裁の判断
 ある事実を基礎とした意見ないし論評の表明による名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったといえ、意見ないし論評の前提としている事実の重要部分について真実であることの証明があったときには、人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上記行為は違法性を欠き(最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2252頁参照)、仮に意見ないし論評の前提としている事実が真実であることの証明がないときにも、行為者においてそれを真実と信ずるについて相当な理由があれば、その故意または過失が否定される(最高裁平成6年(オ)第978号平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)。

(2022.10.27)

管理費滞納者の相続財産管理人が、滞納管理費請求にかかる弁護士費用を滞納者から徴収可能とする規約改正の総会決議は相続財産管理人の同意がなく無効であると主張して争った事案(東京地判令和3年11月16日)

1 事案の概要

 本件は、マンション管理組合が、同マンションの区分所有者(相続財産)が管理費等の支払を滞納していたところ、同マンションの改正後の管理規約上、「違約金としての弁護士費用」を請求することができると規定されており、管理組合が相続財産管理人に対し、上記管理規約の規定に基づき、「違約金としての弁護士費用」及び遅延損害金の支払を求めた事案。

2 裁判所の判断

1)規約改正のための総会の招集通知が相続財産管理人に通知されなかった手続的瑕疵について

 組合員および議決権の出席状況並びに出席者が全会一致で規約改正を承認されたことを踏まえ、同決議に反映されなかった議決権等の割合が僅少であり、その瑕疵を理由として決議をやり直させる実益に乏しいとして、招集通知の欠缺は直ちに集会決議の無効をもたらすものではないとした。

(2)規約改正が区分所有法31条1項後段の一部の承諾が必要かについて

 規約改正が、一部の組合員を対象とするものであり、かつ、その内容からして、対象となった個別の組合員に過酷な義務を課するものであるときは、建物の区分所有等に関する法律31条1項後段の「一部の区分所有者」の「承諾」が必要となるものと解されるとした上で、①規約改正後の管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収することは、全組合員(区分所有者)を対象とするものであるから、相続財産管理人の「承諾」がないことは集会決議の無効をもたらすものではないしたが、②規約改正前に既に生じていた管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収することは、形式的には全組合員(区分所有者)を対象とするかのようであっても、実質的には、既に滞納をしていた原告ら一部の組合員(区分所有者)を対象とするものであり、かつ、債務不履行に対する制裁を遡及的に重くするものであるから、対象となった個別組合員に過酷な義務を課するものといえるとして、その「承諾」はないのであるから、規約改正前に既に生じていた管理費等の滞納に係る弁護士費用を違約金として徴収するとの決議部分は無効であるとした。

3 コメント

 管理規約の変更は、区分所有者及び議決権の4分の3以上の集会の決議があれば可能ですが、規約の変更により一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすときは、その者の承諾を得なければならないとされています(区分所有法31条1項)。そこで、管理規約を変更して新たに制限を設けようとする場合、制限を受ける区分所有者が、「一部の区分所有者の権利に影響を及ぼす」場合に当たることから当該区分所有者の承諾のない管理規約変更決議は無効である等と主張して管理組合と争いとなることがあります。ここでいう「一部の区分所有」とは、まさに区分所有者の一部のことをいい、区分所有者全体に一律に影響を及ぶ場合は含みません。また、「特別の影響」とは、規約変更の必要性・合理性と、これにより影響を受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量し、一部の区分所有者に受忍限度を超えるような不利益が生じると認められる場合解されています。

(2022.10.24)

専有部分の賃借人が、レストラン開設に関する管理組合の不承認決議が裁量権の逸脱・濫用に当たると主張して、争った事案(東京地方判令和4年1月18日)

1 事案の概要

本件は、マンションの1階の専有部分でイタリアンレストランを開業しようと区分所有者と賃貸借契約を締結し、管理規約に基づき理事長に承認を受けるべく申請したところ、管理組合が不承認決議したことから、管理組合が不承認とする権限を有しておらず、仮に権限を有していたとしても不承認決議は裁量権の逸脱・濫用であるとして、管理組合に対し、不法行為に基づく損害賠償請求を、賃貸人に対し、説明義務違反の債務不履行に基づく損害賠償請求をした事案です。

2 裁判所の判断

(1)管理組合に不承認権限があるかについて

店舗使用細則においては、店舗部分は、臭気等を発生させ、住環境に悪影響を及ぼすおそれがある用途には使用できないものとされていることから、管理組合が、本件店舗における工事や営業を承認するか否かを決定する権限を有することは明らかであり、管理規約上、承認するに当たって考慮すべき要素が限定列挙されているわけではないことも併せ考慮すると、管理組合が、工事によって店舗使用細則で禁じられている用途に用いられることとなるか否かを考慮して、工事の承認の可否を決することは、当然に許されるというべきであるとしました。

(2)不承認決議が裁量権の逸脱・濫用かについて

賃借人が本件建物で開業しようとしていたのはイタリアンレストランであって、その食材等から臭気が発生する営業形態であることは否定し難いことから、管理組合が、本件店舗の開業によって臭気が発生することにより住環境が悪化するのではないかという懸念を抱くことが不合理であるとはいえず、また、本件建物は、長らく事務所として使われていた事実等を踏まえ、また、マンション竣工時に近隣の飲食店との臭気トラブル等から、マンションでは、飲食店の臭気を気にする区分所有者が多く、管理組合としても臭気を伴うレストランの開業につながる工事については、承認の可否を慎重に判断することが求められる立場にあったといえるとし、賃借人の臭気対応に関する説明も不十分であったことなどからすれば、管理組合が、賃借人が実効性のある臭気対策をとってくれるのか疑心暗鬼になったとしてもやむを得ず、管理組合に臨時総会で圧倒的多数で不承認案が決議されたというのであり、区分所有者の多数も本件店舗の営業に反対するという状況にあったこと、本件建物で飲食店の営業が保証されていることをうかがわせる条項が管理規約に存しないことなどから、管理組合による本件不承認決議は、区分所有者の共同の利益を慮ったものであって、不合理とはいえず、不承認決議は違法ではなく、不法行為を構成するものではないとした。

(3)区分所有者である賃貸人に説明義務違反があるか

 賃貸人は、竣工時トラブルが存在していたことは知らず、管理規約等は事前に賃借人に説明していたことから、竣工時のトラブルについて説明する義務はなく、また、管理組合に事前に工事内容を説明しておく必要があるとか、管理組合からストップがかかって店舗の開設が難しくなる可能性があるといったことを説明すべき義務があったとも言えないとして、賃貸人の債務不履行責任も否定した。

3 コメント

 理事長や管理組合による不承認に関する争いの場合、区分所有者が原告、管理組合が被告となる場合が多く見受けられるますが、本件は、賃借人が原告となった事案で、賃貸人である区分所有者も被告として訴えています。また、こうした裁判では、管理組合による裁量権の逸脱・濫用が主張される場合が多く、本件も同様ですが、裁判所は、裁量権の逸脱・濫用については言及せず、管理規則の店舗使用細則に規定された「臭気等を発生させ、住環境に悪影響を及ぼすおそれがあるもの」に当たると判断して不承認としたのは不合理ではないとしました。これは、従前の経緯やレストランの種別、賃借人側の対応の不備などが影響したものと思われます。

(2022.10.24)

マンション管理規約の弁護士費用の負担の定めが専有分の賃借人(占有者)にも適用されるか

 標準マンション管理規約では、区分所有者等(賃借人含む)が管理規約や使用細則に違反した場合や不法行為を行った場合、理事長が行為の差止等を行うことができる旨規定し、弁護士費用等について区分所有者等に請求できると規定しています。また、同様に管理費の滞納に対しては、理事長が訴訟等必要な措置をとることができる旨規定し、弁護士費用等については区分所有者に対して請求できる旨規定しています。

 こうした弁護士費用の負担に関する規定は、区分所有者との関係では有効と考えられており、裁判でも実費相当額の請求が認められています(東京高判平成26年4月16日)。問題は、区分所有者から専有部分を賃借している占有者に対しても効力が及ぶか否かです。この点については異なる判断をした2つの裁判例があります。

 東京地判令和4年1月21日は、「区分所有法46条2項は,「占有者は,建物又はその敷地若しくは附属施設の使用方法につき,区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う。」と定めており,その趣旨は・・・建物や敷地等の使用方法に関する限り,占有者は,賃貸人である区分所有者のみならず,区分所有者全体に対しても上記のようなルールを守る義務を負うよう定められたものと解される。また,使用方法以外の事項,例えば管理費の支払いといった点については,仮に規約や集会の決議により定められた場合であっても,占有者に対しては効力を有しないと解される。・・・そして,同条項の内容は,本件マンションの建物又は敷地等の使用方法そのものを定めたものではなく,管理組合法人である原告につき生じた費用の一種である弁護士費用等について,その請求可能額を定めたものである。そうすると,前記の区分所有法46条2項の規定に当てはまるものではなく,むしろ管理費の負担方法に関する性質のものと解さざるを得ない。・・・そうすると,本件管理規約67条4項は,区分所有法46条2項に照らし,被告に対しては効力を有しないと言うべきである。」と判断しました。

 一方、大阪地判令和4年1月20日は、「本件管理規約68条1項は,区分所有者又は占有者が区分所有者の共同の利益に反する行為をした場合には,本件管理組合は区分所有法57条から60条までの規定に基づき必要な措置をとることができる旨を規定し,同条2項は,本件管理組合が本件管理規約に違反した者に対し訴訟等の法的措置を行った場合,その違反者に対して,弁護士費用等その他の法的措置に要する費用について実費相当額を請求することができる旨規定している。被告は,本件各住戸の使用方法につき,区分所有者が規約又は集会の決議に基づいて負う義務と同一の義務を負う(区分所有法46条2項)から,専有部分の使用についての違反行為に対する措置を定めた本件管理規約68条1項及び同条2項の規定は,本件各住戸の占有者である被告にも適用されると解される。」として、賃借人に対しても弁護士費用等負担について定めた管理規約の適用を認めました。

 両判決とも、区分所有法46条2項により占有者が負う義務は建物、敷地、附属施設の「使用方法」についての義務に限定されるとしていますが、前者は、マンション敷地にバイクを無断駐車したとして不法行為に基づく損害賠償請求をした事案で、管理規約の定めを単に費用負担に関する規定と理解して占有者への適用を否定し、後者は、マンションの使用方法が規約違反に当たるとして管理規約に基づき使用の差止を求めた事案で、使用方法に関する規定と理解して占有者への適用を肯定しています。結局のところ、事案の違い、規定内容の違いにより判断が分かれたとも考えられますが、無断駐車も敷地の利用方法についての違反行為(不法行為)であることから、弁護士費用負担に関する規定の適用もありえたのではないかと考えます。

(令和4年10月13日)