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コラム

管理組合の総会決議の無効確認及び決議取消について争われたがいずれも否定された事案(東京地判令和2年8月18日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者の一部の者により構成される管理組合に対し、組合員である区分所有者が、通常総会議案のうち、一部の議案に係る決議が、管理組合の目的外の行為である又は管理組合の管理規約に違反しているなどとして、主位的には、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号(類推)に基づく本件各決議の取消しを求め、予備的には、本件各決議の無効の確認を求めた事案である。

2 裁判所の判断

(1)一般社団法人法266条1項1号及び2号の類推適用の可否について

 一般社団法人法266条1項に基づく取消しの訴えの性質は形成の訴えであるところ、形成の訴えは、権利関係の変動を当事者間に限らず第三者との関係においても画一的に生じさせるという点で影響力が大きく、特に訴えをもって裁判所に権利関係の変動を求めていることができる旨を法が定めている場合に限り提起できるものである。このような形成の訴えの影響力の大きさや特殊性に照らすと、形成の訴えを安易に類推適用することは相当ではない。そして、区分所有法が同法3条の区分所有者の団体のうち法人格を取得した管理組合法人について一般社団法人法を準用する規定(区分所有法47条10項)には、一般社団法人法266条1項が含まれていないことからしても、管理組合について同項を適用することは予定されていないものと解される。したがって、一般社団法人ではない被告に同項を類推適用し本件各決議を取り消すことはできない。

(2)管理費等収支決算報告案及び監査報告案等の承認決議無効の確認の利益について

 「平成29年度 管理費等収支決算報告及び監査報告承認の件」、「建替え検討に係る弁護士費用支払い承認の件」、「平成30年度 管理費等収支予算案承認の件」に関する当事者間の紛争は、より直截には、管理組合による理事らや区分所有者ら個人に対する弁護士費用相当額の立替金返還請求あるいは不当利得返還請求等によってされるべきであり、仮に、管理組合の現在の多数派による上記各請求権の行使が事実上望めない場合には、組合員による理事らに対する責任追及という形でされるべきであり、確認の利益はない。

(3)「建替え検討に係る検討予算承認の件」の確認の利益について

 建替え検討の進捗のための裁判手続対応や第三者の意見取得等の費用として、上限を850万円とする予算の承認を求めるものであるがが、そもそも、どのような支出が「建替え検討の進捗のため」の費用に当たるかは、具体的な支出の費目について、個別に判断するほかないものであり、仮に、個別の費目について「建替え検討の進捗のため」に当たらず支出が許容されないものがあれば、より直截には、個別に支払を拒否したり、既払金の返還を求めたりすればよいものであるから、同議案を承認する決議の無効を確認したとしても、法律関係の存否を最も直接的かつ効果的に確定することにはならず、確認の履歴はない。

3 コメント

 区分所有法は、総会決議の手続き違反の効果や決議の取消について定めておらず、一般社団法人法を類推して法的主張がなされる場合があります。本件では、取消の訴えについて、類推適用を否定しました。

(2022.11.23)

請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし他方を反訴請求債権とする本訴および反訴の係属中における、本訴請求債権を自働債権とし反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁の許否について判断した事案(最判令和2年9月11日)

1 裁判所の判断

 請負契約における注文者の請負代金支払義務と請負人の目的物引渡義務とは対価的牽連関係に立つものであるところ、瑕疵ある目的物の引渡しを受けた注文者が請負人に対して取得する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、上記の法律関係を前提とするものであって、実質的、経済的には、請負代金を減額し、請負契約の当事者が相互に負う義務につきその間に等価関係をもたらす機能を有するものである。しかも、請負人の注文者に対する請負代金債権と注文者の請負人に対する瑕疵修補に代わる損害賠償債権は、同一の原因関係に基づく金銭債権である。このような関係に着目すると、上記両債権は、同時履行の関係にあるとはいえ、相互に現実の履行をさせなければならない特別の利益があるものとはいえず、両債権の間で相殺を認めても、相手方に不利益を与えることはなく、むしろ、相殺による清算的調整を図ることが当事者双方の便宜と公平にかない、法律関係を簡明にするものであるといえる(最高裁昭和52年(オ)第1306号、第1307号同53年9月21日第一小法廷判決・裁判集民事125号85頁参照)。

 上記のような請負代金債権と瑕疵修補に代わる損害賠償債権の関係に鑑みると、上記両債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属している場合に、本訴原告から、反訴において、上記本訴請求債権を自働債権とし、上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁が主張されたときは、上記相殺による清算的調整を図るべき要請が強いものといえる。それにもかかわらず、これらの本訴と反訴の弁論を分離すると、上記本訴請求債権の存否等に係る判断に矛盾抵触が生ずるおそれがあり、また、審理の重複によって訴訟上の不経済が生ずるため、このようなときには、両者の弁論を分離することは許されないというべきである。

 そして、本訴及び反訴が併合して審理判断される限り、上記相殺の抗弁について判断をしても、上記のおそれ等はないのであるから、上記相殺の抗弁を主張することは、重複起訴を禁じた民訴法142条の趣旨に反するものとはいえない。

 したがって、請負契約に基づく請負代金債権と同契約の目的物の瑕疵修補に代わる損害賠償債権の一方を本訴請求債権とし、他方を反訴請求債権とする本訴及び反訴が係属中に、本訴原告が、反訴において、上記本訴請求債権を自働債権とし、上記反訴請求債権を受働債権とする相殺の抗弁を主張することは許されると解するのが相当である。

(2022.11.23)

請負業者の注文主に対する請負代金請求に関し、完成、瑕疵の有無、同時履行の抗弁権行使の可否が争点となった事案(東京地判令和2年10月29日)

1 事案の概要

 本件は、請負業者が、注文主に対し、建物の大規模修繕工事請負契約に基づき残代金1560万円及びこれに対する支払済みまで商法所定年6%の割合による遅延損害金を請求する事案である。

2 裁判所の判断

(1)工事の完成について 

 工事の完成とは、工事が予定された最後の工程まで一応終了したことを指すと解され、最後の工程まで一応終了している場合は、何らかの瑕疵修補が必要であったとしても、それは工事が完成したが瑕疵がある場合に当たるというべきであるとして、本件については、工事の予定された最後の工程まで終了して引渡しをしたと認められるとした。

(2)各瑕疵について

 スロープの縁と道路の角度等は、いずれもよほど注意して見なければ分からない程度のわずかなものであって、本件建物の美観やスロープとしての性能を損なうようなものではないことが明らかであるから瑕疵とはいえない。
 駐輪場は、居住者が自転車を置くためのスペースであるから、自転車を置くことに支障を来すような不陸があってはならないが、屋内のロビーや廊下、居室の床面とは異なり、鏡のような平坦さにより構成される美観を要求される場所ではなく、駐輪場にはわずかな凹みがあるだけであり瑕疵とはいえない。
 バルコニーも、個々の居住空間に属するという点においては駐輪場よりも美観を要求されるレベルは高いといえるが、基本的に、屋外スペースとして洗濯物干しや植木鉢を置く等の用途に供される場所であり、同様に鏡のような平坦さにより構成される美観を要求される場所ではなく、バルコニーにはわずかな凹みがあるだけであり瑕疵とはいえない。
 屋上パラペットに塗りむらがあとしても、屋上パラペットは、住民が通常目にすることはなく、美観を要求される部分でもないといえるから、塗りむらが瑕疵とはいえない。
 なお、本件建物が通常よりも高度の美観を要求されるデザイナーズマンションであることを売り物にしている物件であるとしても同様である。

(3)同時履行の抗弁権について

 瑕疵が極めて軽微なものであり、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反する(最高裁判所第三小法廷判決・平成9年2月14日民集51巻2号337頁参照)というべきであるから、同時履行の抗弁を主張することはできない。

3 コメント

 各争点について、一般的な基準に基づき判断しています。瑕疵については、美観が重要視される部分については美観も重要な要素になりますが、機能性が重視されるものについては、機能上問題なければ瑕疵がないと判断される傾向にあります。

(2022.11.22)

施工業者による建物の一括借り上げの場合の瑕疵担保責任の時効期間の起算点等が争いとなった事案(東京地判令和2年10月30日)

1 事案の概要

 本件は、施主が施工業者に注文した共同住宅2棟の新築工事について、耐火性能が不十分であったこと等の瑕疵があったとして、施工業者に対し請負契約の担保責任又は説明義務違反に基づき、修補費用等の損害賠償を請求した事案。
 主たる争点は、①民間建設工事標準請負約款の瑕疵担保期間について定めた規定が民法の特則か、②時効の起算点について、③説明義務違反の時効の起算点について、④時効の主張が権利濫用にあたるかである。

2 裁判所の判断

(1)担保責任について約款が民法の特則かについて

 民間建設工事標準請負契約約款は、工事目的物の瑕疵によって生じた滅失毀損について規定し、これは補修や損害賠償の対象となるものであるから、工事目的物たる建物自体の瑕疵について民法の特則を定めたものと解することができ、本件において適用を排除すべき理由はない。

(2)担保責任の除斥期間の起算点について

 約款における瑕疵担保責任の存続期間の起算点は、改正前民法と同様、引渡時とされる。   本件においては、施工者が建物完成後に一括借上げをしているが、法は引渡しを予定しない請負契約の場合をも想定しているのであって(同法637条2項参照)、現実の引渡しがないことを殊更問題とする必要はない。加えて、一括借上げという形態を踏まえると、現実の引渡しがないことは注文者において当然に想定されるのだから、担保責任の起算点は、建物の引渡しがなされた日(一括借り上げの契約締結時)である。

(3)説明義務違反に基づく請求権の消滅時効の起算点について

 施主において説明義務違反を追及するとしても、請負業者の説明義務およびその違反は遅くとも引渡し時点で生じており、その時点ですでに注文者の権利が発生していたのだから、前記(1)と同様、引渡しの時点から権利行使が可能だったというべきである。

(4)消滅時効援用が信義則に反するかについて

 施工業者が建物を建築する目的を達成できなくなることを知りながら、その権利行使の機会を奪ったという事実を認める証拠がない。

3 コメント

 瑕疵担保責任の除斥期間の起算点について民法の規定に基づき判断したものであるが、耐火性能が不十分であった等の法的な瑕疵は、行政機関などの第三者から指摘により発覚することが多く、指摘された時点で瑕疵担保責任の時効を過ぎていることが考えられます。

(2022.11.20)

区分所有法7条の先取特権に基づく配当要求に時効中断効を認めた最高裁判例(最判令和2年9月18日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの団地管理組合法人が、専有部分を担保不動産競売で取得した区分所有者に対し、建物部分の前の共有者が滞納していた管理費等の支払義務を当該区分所有者が承継したとして、その管理費等の支払を求めた事案。
 主たる争点は、管理組合法人が行った先取特権に基づく本件配当要求により、管理費等の一部について消滅時効の中断の効力が生じている否かである。

2 裁判所の判断

  区分所有法7条1項の先取特権は、優先権の順位及び効力については、一般の先取特権である共益費用の先取特権(民法306条1号)とみなされるところ(区分所有法7条2項)、区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が不動産競売手続において民事執行法51条1項(同法188条で準用される場合を含む。)に基づく配当要求をする行為は、上記債権者が自ら担保不動産競売の申立てをする場合と同様、上記先取特権を行使して能動的に権利の実現をしようとするものである。また、上記配当要求をした上記債権者が配当等を受けるためには、配当要求債権につき上記先取特権を有することについて、執行裁判所において同法181条1項各号に掲げる文書(以下「法定文書」という。)により証明されたと認められることを要するのであって、上記の証明がされたと認められない場合には、上記配当要求は不適法なものとして執行裁判所により却下されるべきものとされている。これらは、区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権についても同様である。
 以上に鑑みると、不動産競売手続において区分所有法66条で準用される区分所有法7条1項の先取特権を有する債権者が配当要求をしたことにより、上記配当要求における配当要求債権について、差押えに準ずるものとして消滅時効の中断の効力が生ずるためには、法定文書により上記債権者が上記先取特権を有することが上記手続において証明されれば足り、債務者が上記配当要求債権についての配当異議の申出等をすることなく配当等が実施されるに至ったことを要しないと解するのが相当である。

(2022.11.20)

区分所有者が管理組合に対し、総会決議が決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であると主張して争った事案(東京地判令和2年9月10日)

1 事案の概要

 本件は,マンションの区分所有者が,管理組合に対し,管理規約の変更(理事の総数や選任要件等の定め)についての総会決議が、管理規約に定めた決議要件(頭数要件)を満たしておらず無効であり、無効な変更後の管理規約に基づき選任された理事やその理事により招集された総会の決議も無効であるあるとして争った事案。
 主たる争点は、①決議の瑕疵が治癒されたか、②総会決議無効の主張が権利濫用かである。

2 裁判所の判断

(1)決議の瑕疵が治癒されたかについて

 元々の決議が無効ないし不存在であるとすると、無効ないし不存在の変更後の理事の定員及び資格要件に沿って選任された理事及び理事によって互選された理事長は適法に選任された者ではないことになるところ,招集権のない者によって招集された集会は,区分所有者全員が出席し,開催を承諾した等の特段の事情がない限り,区分所有法上の集会と評価することはできないから,同集会でされた決議も特段の事情がない限り,不存在と評価すべきである。
 そして,管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきである。
 本件では、本件では、議決権要件は満たしていたものの頭数要件は満たしておらず、管理規約に頭数要件を加えた趣旨が多くの床面積を持たない少数議決権者の権利を一定程度保護することにあることからすればこれを尊重すべきであり、頭数として不足していた人数が3名であったからといって,軽微な瑕疵であるとはいえないとした。そして、議案の内容が合理的であり、当該決議から13年間にわたって当該決議をもとに総会が運営されてきたこと、臨時総会において当該決議の問題がその後の議決等に影響が与えるものではないことを確認する議案が過半数で可決されているとしても、瑕疵は重大であることから、瑕疵は治癒されないとした。

(2)総会決議無効の主張が権利濫用かについて

総会決議無効を主張している区分所有者らは、当初の総会決議で委任状を出すなどして、総会後も決議に無効事由があったことも知る機会があったのであるから、12年も経ってから総会決議無効を主張するのは権利の濫用に当たるとした。

3 コメント

 管理組合の総会決議について,区分所有法は無効事由を定めていないから,決議に瑕疵があれば原則として無効となると解すべきであるが、決議が無効となれば,管理組合内部のみならず,第三者に対する関係においても影響を及ぼすことに鑑み,決議の瑕疵が重大でなく,かつ,その瑕疵があったことが決議の結果に影響を及ぼさないことが明らかである場合には,当該瑕疵による決議は無効を主張できないと解すべきであるとした点が参考となります。
 本件は、決議要件を満たしていなかった議案の内容が理事の人数や就任条件に関するものであったから、瑕疵は重大で治癒されないとしたものと思われます。

(2022.11.19)

マンションの賃貸人が漏水事故により損害を被ったとして賃貸人、管理組合及び管理会社に対して損害賠償請求した事案(東京地判令和2年9月25日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの一室の賃貸人が、建物における漏水事故(配管内の異物混入を原因とする)について、賃貸人に対し、債務不履行に基づき、管理組合に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、管理会社に対し、民法709条又は民法717条1項に基づき、それぞれ損害賠償及びこれに対する遅延損害金の支払を求め、賃貸人に対し、予備的に、不当利得返還請求権に基づき、賃料相当額の返還を求める事案。

2 裁判所の判断

(1)管理組合及び管理会社の民法709条の責任について

 漏水事故が発生する以前に配管内に異物が混入していることをうかがわせるような不具合が生じた等の事情は認められないから、管理組合又は管理会社がマンションの共用部分の修繕、保守点検等として、配管内の状態を確認する検査を行う義務を負っていたということはできず、異物を発見することができなかったとしても、このことにより配管の管理を怠ったということはできず、不法行為責任は成立しない。
 なお、管理規約上、給排水衛生設備は、専有部分に属さない建物の附属部分として、共用部分に属するものとされている。

(2)管理組合及び管理会社の民法717条の責任について

 管理組合は、区分所有法3条の管理組合として、マンションの共用部分を管理しているものの、共用部分は、本件マンションの区分所有者全員の共用に供されるべき部分であるから、マンションの区分所有者全員がこれを占有しているというべきであって、管理組合が上記共用部分の管理をしていることをもって、これを占有しているということはできない。
 同様に、管理会社は、管理組合からマンションの共用部分の管理を委託されているものの、管理組合が共有部分を占有しているといえない以上、被管理会社もこれを占有しているということはできない。
 したがって、配管の設置又は保存に瑕疵があり、これにより事故が生じたとしても、管理組合や管理会社がこれを占有していたということはできず、工作物責任は負わない。

(3)賃貸人の債務不履行について

 事故は、配管の内部に本件角材が混入し、その周囲に本件配管の内部を流れる物体が詰まり、これらが配管を塞いだことを原因として発生したものと認められるところ、配管に角材が混入した経緯は不明であって、管理組合又は管理会社が配管の管理を怠ったということはできない上、配管は共用部分に属し、賃貸人は、配管を直接管理し得る立場にはない。また、事故が発生した後、建物について修繕を行う前提となる建物の調査が行われるまでに7か月余りが経過しているところ、賃借人は、賃貸人及び管理会社の各担当者が調査への協力を要請しても、これに応じなかったことが認められ、そのために賃貸人が建物の修繕を行うことができなかったものというべきであるから、事故の後、直ちに修繕が行われなかったことについても、賃他人が修繕義務を怠ったということはできない。以上により、賃貸人が債務不履行責任を負うということはできない。

3 コメント

 本件は、共用部分である配管のトラブルが原因となって専有部分に漏水等の事故が生じた事案です。このような場合、裁判例では、区分所有者が管理組合に対し、不法行為や管理組合との委任契約に基づいて損害賠償請求をするという形で争いとなりますが、区分所有者と管理組合に委任契約があるかについては明確に判断しておらず、区分所有法3条、19条、23条や管理規約ともに管理組合が負担すべきとしています。ただ、判示内容を見る限り、管理組合に過失がない場合にも管理組合が賠償責任を負うかについては明確ではありません。もっとも、実際は、保険対応で処理される場合が多いと思われます。
 本件は、専有部分を賃貸にしていたので、賃借人が賃貸人の債務不履行責任、管理組合及び管理会社の不法行為責任及び工作物責任を追及する形をとっています。もっとも、配管トラブルの責任が施工業者にあると考えられ、管理組合や管理会社に過失は認められないことから不法行為責任は負わず、管理組合はマンションの共用部分を管理していますが、共用部分はマンションの区分所有者全員が占有しているというべきであるから、管理組合は占有者に当たらず工作物責任を負わないとされました(東京高判平成29年3月15日同旨)。なお、管理組合が工作物責任を負う旨判示した裁判例もあります。

(2022.11.19)

請負業者が仕事の完成を主張し残代金を請求したのに対し、注文主が瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求等をした事案(東京地判令和3年1月13日)

1 事案の概要

 本訴は、リフォームを請け負った業者が、注文主に対し、本工事及び追加工事の残代金及び遅延損害金を求めた事案。反訴は、注文主が請負業者に対し、契約に反した施工を行い、未完成部分、不具合部分、瑕疵部分が多数あり、また、請負業者が工事を遅延させたために賃料収入を失ったなどと主張して、契約不履行に基づく損害賠償請求権(債務不履行又は瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権を主張するものと解される。)に基づいて、損害賠償金及び遅延損害金を求めた事案。

2 裁判所の判断

(1)仕事の完成の有無及び本件残代金請求権の有無について

 民法及び請負契約における解釈として、請負業者が注文主に残代金を請求するための要件としては、①請負業者が本件工事について予定された最後の工程を終了させ、②注文主が請負業者立会いのもとで工事完了検査を行い、③その後、補修することが社会通念上相当と思われる箇所(以下「指摘箇所」という。なお、許容限度の範囲内のものは含まない。)が存在しない状態になり、④正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当することが必要であるとした。
 そして、本件では、予定した工事が終了しており、指摘箇所があったと認める証拠はなく、2度目の工事完了検査以降、当事者間では補修について折合いがつかず、請負業者が、請負業者において補修が必要であると判断した箇所とその補修方法を記載した文書を、それまで使用されていた注文主のメールアドレス宛に送信し、これに対する被告からの応答が2カ月なかったのであるから、注文者において正当な理由なく工事完了検査または完成確認書の提出を拒んだ場合に該当するとして、前記要件④も充足される、報酬請求可能とした。
 なお、注文趣旨がメールを閲読したかは不明であるが、閲読することは可能であったといえ、それまでの当事者間の連絡方法の態様を考慮すると、請負業者において、注文主による当該文書の閲読を期待することには相応の合理的根拠があったというべきであるとして、注文主が実際に閲読したかどうかは関係ないとした。

(2)瑕疵について

 瑕疵については、根太の不設置、床スラブの不陸、サッシのアングルピースの波うち、壁紙の浮き、しわ、凸凹等、巾木と床の隙間などが主張されたが、契約上の施工水準や一般的施工水準をもとに判断した。その結果、壁紙の凸凹は下地の不具合に由来するものがあると認められるところ、下地の補修について契約違反があったとは認められないとした。また、アングルピースは、経年劣化による歪みについて叩いて直すことがあり、その結果歪みが生じても機能上も美観上も問題ないとして瑕疵に当たらないとした。

(3)請負業者による解除の有効性について

 瑕疵により目的達成不能ではないから瑕疵担保責任に基づく解除はできず、請負業者に債務不履行はないか(履行遅滞)ら債務不履行に基づく解除もできないとした。

(4)工期延長による債務不履行責任について

 工期延長について請負業者に帰責事由はなく、請負業者の瑕疵担保責任と注文主の残代金の支払債務は同時履行の関係に立つので、瑕疵担保責任の履行が遅延したことについて請負業者は責任を負わないとした。

(5)損害について

 修補費用については、直接工事費(材料費、労務費、水道光熱費等)に対して諸経費25パーセントと消費税8パーセントを認めた。また、調査費用として、実際の瑕疵該当性等も踏まえ3割相当額、弁護士費用として10%相当額を認めた。建物を賃貸できないことによる損害は、残代金請求と瑕疵修補又は損害賠償請求が同時履行の関係にあり、注文主から残代金の弁済の提供がないことから、瑕疵の補修又は損害の賠償が遅滞したことにより注文主に損害が生じたとしても,その遅滞については違法性が認められず、請負業者の賠償責任を認めなかった。なお、建物引き渡しの有無は結果を左右しないとした。

3 コメント

 民法上、請負契約においては、仕事完成により報酬請求権が発生し、建物建築請負工事契約における仕事の完成とは、予定された最後の工程が終了したことを意味します。本件では、予定された最後の工程まで終了しており、契約及び約款で定められた要件も満たしているとして、請負業者による報酬請求権を認めました。そして、報酬請求と瑕疵修補又は修補に代わる損害賠償請求、報酬請求と建物引き渡しは同時履行の関係にあるとして、修補が遅延していることや引き渡しがないことについての損害賠償請求は認めていません。

(2022.11.13)

下請業者による元請業者に対する報酬請求に関し、合意した報酬額(元請業者の責めによる費用の増加等)が争点となった事案(東京地判令和3年1月22日)

1 事案の概要

 本件は、大学校舎の改修電気設備工事を請け負った下請業者が、元請業者に対し、請負契約における報酬合意として、①主位的に、実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意をしたと主張して、請負契約に基づく未払報酬及び確定損害金並びに同未払報酬額に対する遅延損害金の支払を求めるとともに、②予備的に、仮に上記報酬合意が認められないとしても、相当額の報酬を支払う旨の合意をしたと主張して、請負契約に基づく未払報酬及び確定損害金並びに同未払報酬額に対する遅延損害金の支払を求めた事案。
 主たる争点は、①実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したか、②相当額の報酬を支払う旨の合意が成立したか、③相当な報酬額がいくらかである。

2 裁判所の判断

(1)実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したかについて

 下請業者が元請業者に対し、複数回にわたり各月の労務費及び部材費等を請求する旨の請求書又はそれに類する書面を送付したが、元請業者がこれらの請求書等に応じた報酬を一度も支払っておらず、また、当該請求書等で請求された報酬を支払う意向を示していたことをうかがわせる事情も見当たらないことから、実費及び利益相当分を報酬とする旨の合意が成立したと認めることはできないとした。
 そして、下請業者が元請業者に工事の見積書を複数回提出しこれに関するやりとりを行ったこと、元請業者が作成した工事金額(予定)欄に「¥未定 ※工事金額未定の場合は、見積書提出後に協議の上、決定します。」との記載のある「指示書」を下請業者に出し、下請業者が、「上記の通り工事の指示内容を承諾いたします。」と記載した「承諾書」を作成していることから、当初から、見積書に基づき報酬額を決定すること、すなわち、工事の報酬を、実費ではなく、見積書を基にした固定額とすることを、予定していたというべきであるとした。

(2)相当額報酬支払の合意について

 元請業者が請負契約に基づき相当な報酬額を支払う義務を負っていること自体は認めていることから、両者は当初から見積書に基づき報酬額を決定することを予定していたといえ、請負契約締結の際、少なくとも黙示的に相当な報酬額を支払う旨の合意が成立していたとした。

(3)相当な報酬額について

 まず、相当な報酬額は、当事者間に推認される合理的意思や、工事の規模・内容等諸般の事情を総合して判断するのが相当であるとして、下請業者が元請業者に提出した最終の見積書の額をベースとして、出来高割合方式により相当額について認容した。
 なお、下請業者は、元請業者に提出した最終の見積書については元請業者に作成するよう指示されたもので下請業者の希望額ではないと主張したが、証拠上、元請業者から強いられたとは認められず、その内容についても、元請業者が入札した際の予定価格のもととなる工事内訳書を基に作成されたものであることなどから、見積書にも相応の信憑性が認められるとして、下請業者の主張を排斥した。一方、元請業者も最終の見積書の額については争ったが、当初見積書については修正を依頼したにもかかわらず、最終の見積書についてはそうした行動をとらなかったとして、元請業者の主張を排斥した。
 また、下請業者は、被告指示、変更工事等により工事の人件費及び部材費が増大した、と主張したが、いずれについても、人員を適切に配置することで対処できた可能性が否定できない、あるいは、増大した人件費や部材の具体的な金額が証拠上明かでないなどとして排斥した。

3 コメント

 本件では、報酬額の合意について争いとなったが、見積書に関する当事者の交渉経緯を詳細に認定し、合意の成立を判断しています。見積書に対して単に応答しなかったことをもって黙示の合意が成立したということにはなりませんが、当初見積もりについては修正を依頼したにもかかわらず、その後の見積書に何ら異議を述べなかった場合は、黙示の合意の推定が働く可能性もあります。
 なお、元請業者の指示等による部材、人件費が増大したという下請業者の主張は、証拠上増大した具体的な金額が明らかでないとして排斥しましたが、本件は、専門家調停委員が入っていないことから、専門家調停員が入った場合、変更工事等による人件費の増加等については、異なる結論が出た可能性も否定できないと考えます。

(2022.11.12)

管理組合が、区分所有者に対し、改定後の管理規約に基づき、管理費や違約金等の支払いを求めた事案(東京地判令和2年10月27日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの管理組合が、マンションの居室の区分所有者に対し、従前の組合の規約を改定する組合総会の決議に基づき、管理費及び修繕のための積立金の未払分の支払を求めるとともに、同未払分について確定遅延損害金及び現行の規約に基づく年14パーセントの割合による遅延損害金(確定遅延損害金を含む。)並びに現行の規約に基づく違約金の支払を求めた事案。
 主たる争点は、①区分所有法31条1項後段の同意の要否、②違約金の負担についてである。

2 裁判所の判断

(1)区分所有法31条1項後段の同意の要否について

 区分所有法31条1項後段の趣旨は、規約の設定、変更等が区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による総会の決議によってされ(同項前段)、多数者の意思によって特定の少数者のみに不利益な結果をもたらす規約の設定、変更等が実現するおそれがあることから、そのような事態の発生を防止することにあり、「特別の影響」とは、規約の設定、変更等の必要性及び合理性とこれにより受ける一部の区分所有者の不利益とを比較衡量して、当該区分所有者が受忍すべき程度を超える不利益を受けると認められる場合を指すものと解される。
 本件改定により、被告である区分所有者の管理費等は、他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたが、本件改定の対象となった管理費等は、共用部分の管理に関する必要経費に充てるために組合員に課されたものといえる。共用部分に関し、区分所有法は、①14条1項において、各共有者の共用部分の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による旨を、②19条1項において、各共有者は、規約に別段の定めがない限りその持分に応じて、共用部分の負担に任じる旨をそれぞれ定めている。これらの規定によれば、同法は、共用部分の負担につき、各区分所有者が各自の専有部分の床面積の割合に応じて引き受けることをもって、それぞれに応分の負担をさせる実質的公平にかなう原則的な取扱いとしたものと解される。そうすると、各区分所有者一律に同額の管理費等を課していた従前の規約は、専有部分の床面積が比較的少ない区分所有者に実質上過度の負担を課していたという問題点があったということができる。
 したがって、従前の規約を改めて管理費等の額を各専有部分の登記簿面積に応じた按分額に改定する旨の本件改定は、これまでの問題点を是正し、区分所有法の原則的な取扱いを採用するものであるから、必要性、合理性とも十分に認められるものというべきである。
 そして、本件改定による変更後の規約は、被告のみならず全区分所有者に適用され、上記のとおり被告の管理費等が他の区分所有者の管理費等に比して大きく増額されたのは、被告の専有部分の登記簿面積が他の区分所有者に比して広いことによる必然の結果にほかならず、不合理ということはできない。本件改定による被告の管理費等の増額は、上記の本件改定の必要性、合理性と比較衡量して、被告が受忍すべき限度を超える不利益に当たらないと考える。
 以上によれば、本件改定は、被告の権利に「特別の影響」を及ぼすものではなく、よって、本件改定に被告の承諾は要しない。

(2)違約金の負担について

 区分所有者である被告は、管理規約の定めに基づき、違約金として、弁護士費用、督促及び徴収の諸費用に相当する額の支払義務を負う。なお、原告は、区分所有者は、代理人弁護士らとの委任契約に基づき、本件訴えにより得られる経済的利益の16パーセントに相当する額の報酬の支払義務を負うが、同報酬はいまだ支払われていないものと推認され、現時点において同報酬を違約金の算定に含めることはできない。

3 コメント

 本件は、事実上、一部の区分所有者の管理費等が増額されたので、一部の区分所有者に特別の影響を及ぼすとも思えるが、規約変更の必要性、合理性と不利益を受ける区分所有者の不利益の程度を比較考量して「特別の影響」を及ぼすものではないと判断しており、妥当な判断と考えます。
 違約金については、管理規約で弁護士費用等を負担させる旨定めていましたが、報酬金については費用がまだ発生していないとして請求を認めませんでした。報酬額は、弁護士会の基準に基づいた金額であり、不相当に高額ではないことから、認められてしかるべきと考えます。実際に、多くの裁判例で認められています。なお、報酬金を認めた裁判例の中には、裁判提起に関する総会決議で予備費として報酬金を計上していた事案もあり、そうした方法をとることにより認められ可能性が高くなるかもしれません。

(2022.11.12)