1 事案の概要
本件は、請負業者が、注文主に対し、建物の大規模修繕工事請負契約に基づき残代金1560万円及びこれに対する支払済みまで商法所定年6%の割合による遅延損害金を請求する事案である。
2 裁判所の判断
(1)工事の完成について
工事の完成とは、工事が予定された最後の工程まで一応終了したことを指すと解され、最後の工程まで一応終了している場合は、何らかの瑕疵修補が必要であったとしても、それは工事が完成したが瑕疵がある場合に当たるというべきであるとして、本件については、工事の予定された最後の工程まで終了して引渡しをしたと認められるとした。
(2)各瑕疵について
スロープの縁と道路の角度等は、いずれもよほど注意して見なければ分からない程度のわずかなものであって、本件建物の美観やスロープとしての性能を損なうようなものではないことが明らかであるから瑕疵とはいえない。
駐輪場は、居住者が自転車を置くためのスペースであるから、自転車を置くことに支障を来すような不陸があってはならないが、屋内のロビーや廊下、居室の床面とは異なり、鏡のような平坦さにより構成される美観を要求される場所ではなく、駐輪場にはわずかな凹みがあるだけであり瑕疵とはいえない。
バルコニーも、個々の居住空間に属するという点においては駐輪場よりも美観を要求されるレベルは高いといえるが、基本的に、屋外スペースとして洗濯物干しや植木鉢を置く等の用途に供される場所であり、同様に鏡のような平坦さにより構成される美観を要求される場所ではなく、バルコニーにはわずかな凹みがあるだけであり瑕疵とはいえない。
屋上パラペットに塗りむらがあとしても、屋上パラペットは、住民が通常目にすることはなく、美観を要求される部分でもないといえるから、塗りむらが瑕疵とはいえない。
なお、本件建物が通常よりも高度の美観を要求されるデザイナーズマンションであることを売り物にしている物件であるとしても同様である。
(3)同時履行の抗弁権について
瑕疵が極めて軽微なものであり、瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反する(最高裁判所第三小法廷判決・平成9年2月14日民集51巻2号337頁参照)というべきであるから、同時履行の抗弁を主張することはできない。
3 コメント
各争点について、一般的な基準に基づき判断しています。瑕疵については、美観が重要視される部分については美観も重要な要素になりますが、機能性が重視されるものについては、機能上問題なければ瑕疵がないと判断される傾向にあります。
(2022.11.22)