1 事案の概要
本件は、マンションの区分所有者の一部の者により構成される管理組合に対し、組合員である区分所有者が、通常総会議案のうち、一部の議案に係る決議が、管理組合の目的外の行為である又は管理組合の管理規約に違反しているなどとして、主位的には、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律266条1項1号及び2号(類推)に基づく本件各決議の取消しを求め、予備的には、本件各決議の無効の確認を求めた事案である。
2 裁判所の判断
(1)一般社団法人法266条1項1号及び2号の類推適用の可否について
一般社団法人法266条1項に基づく取消しの訴えの性質は形成の訴えであるところ、形成の訴えは、権利関係の変動を当事者間に限らず第三者との関係においても画一的に生じさせるという点で影響力が大きく、特に訴えをもって裁判所に権利関係の変動を求めていることができる旨を法が定めている場合に限り提起できるものである。このような形成の訴えの影響力の大きさや特殊性に照らすと、形成の訴えを安易に類推適用することは相当ではない。そして、区分所有法が同法3条の区分所有者の団体のうち法人格を取得した管理組合法人について一般社団法人法を準用する規定(区分所有法47条10項)には、一般社団法人法266条1項が含まれていないことからしても、管理組合について同項を適用することは予定されていないものと解される。したがって、一般社団法人ではない被告に同項を類推適用し本件各決議を取り消すことはできない。
(2)管理費等収支決算報告案及び監査報告案等の承認決議無効の確認の利益について
「平成29年度 管理費等収支決算報告及び監査報告承認の件」、「建替え検討に係る弁護士費用支払い承認の件」、「平成30年度 管理費等収支予算案承認の件」に関する当事者間の紛争は、より直截には、管理組合による理事らや区分所有者ら個人に対する弁護士費用相当額の立替金返還請求あるいは不当利得返還請求等によってされるべきであり、仮に、管理組合の現在の多数派による上記各請求権の行使が事実上望めない場合には、組合員による理事らに対する責任追及という形でされるべきであり、確認の利益はない。
(3)「建替え検討に係る検討予算承認の件」の確認の利益について
建替え検討の進捗のための裁判手続対応や第三者の意見取得等の費用として、上限を850万円とする予算の承認を求めるものであるがが、そもそも、どのような支出が「建替え検討の進捗のため」の費用に当たるかは、具体的な支出の費目について、個別に判断するほかないものであり、仮に、個別の費目について「建替え検討の進捗のため」に当たらず支出が許容されないものがあれば、より直截には、個別に支払を拒否したり、既払金の返還を求めたりすればよいものであるから、同議案を承認する決議の無効を確認したとしても、法律関係の存否を最も直接的かつ効果的に確定することにはならず、確認の履歴はない。
3 コメント
区分所有法は、総会決議の手続き違反の効果や決議の取消について定めておらず、一般社団法人法を類推して法的主張がなされる場合があります。本件では、取消の訴えについて、類推適用を否定しました。
(2022.11.23)