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マンションの区分所有者が管理組合に対し、管理費から自治会費を支払うとした管理規約の無効確認等を求めた事案(東京地判令和4年7月20日)

1 事案の概要

 本件は、マンションの区分所有者が、①管理組合に対し、管理組合が自治会に団体として加入し、管理費から自治会費を支払う旨の管理規約及び管理組合が自治会を脱退する場合には全体総会の特別決議を経る旨の管理規約がいずれも無効であることの確認請求、②管理組合が各定期総会において、管理費から自治会費を支払う内容の予算案を承認した各決議がいずれも無効であることの確認請求、③区分所有者が管理組合に支払った管理費のうち、区分所有者が自治会を退会した日以降に管理組合が支払った自治会費相当額について不当利得に基づく返還請求をこうした事案である。
 主たる争点は、①自治会に関する各条項の定めが管理組合の目的の範囲内といえるか、②実質的に区分所有者の自治会退会が制限されているかである。

2 裁判所の判断

(1)自治会に関する各条項の定めが管理組合の目的の範囲内といえるかについて

 自治会は、管理組合が管理する建物等の対象範囲と活動地域が一致し、自治会の基本方針に各マンションの生活環境の改善・向上のための活動が含まれ、自治会は各マンションに係る防災・防犯・清掃活動、各マンションの価値の維持・向上に資する近傍の美化活動・住環境改善活動を行っていることからすると、自治会は、管理組合の建物等の管理に含まれる活動を基本方針とし、実際にも各マンションの建物等を維持していくために必要かつ有益な活動を行う団体であるといえる。したがって、自治会に加入することを被告の規約に定めることは、建物等の管理に関する規約として被告の目的の範囲内ということができる。
 また、自治会への加入が建物等の管理に必要かつ有益であるといえる以上、任意加入団体としての自治会が管理組合の目的に含まれない他の活動を行っていた場合であっても、本件自治会への加入が被告の目的の範囲を逸脱することとなるものではない(なお、イベント(催事)やサークル活動についても、その目的・内容によっては、マンション及び周辺の居住環境の維持向上に資する活動として、被告の目的に含まれる場合があり得るものと解される。)。
 もっとも、管理組合と自治会との関係に照らして、自治会への加入及び脱退を定める管理規約の各条項が、区分所有法に定められた管理組合の規約事項を潜脱する意図で定められたことが明らかであるなどの特段の事情が認められる場合には、管理規約の各条項の効力が否定される余地もないとはいえない。
 本件では、管理組合と自治会は、共通の目的を有する関係にはあるものの、自治会は管理組合の業務に協力し、その対価としての性質を有する自治会費を受領する一方、自治会の活動内容はその基本方針に沿って自治会が独自に策定しているということができる。そうすると、管理組合と自治会は協力関係にある別個の独立した団体であるといえるから、自治会への加入が管理組合の規約事項を潜脱する目的で定められたものと評価することはできない。

(2)実質的に区分所有者の自治会退会が制限されているかについて

 管理組合が自治会に支払う自治会費は、管理組合が団体として支払義務を負う会費であり、観念的には構成員である区分所有者が拠出した管理費がその原資に含まれ得るものであるとしても、そのことによって管理組合の一構成員である区分所有者が自治会に自治会費を支払ったこととなるものではない。
 もっとも、管理組合の支払う自治会費が、管理組合の組合員の数や戸数に応じて算出されるなど組合員の支払うべき自治会費を管理組合が代わりに支払っているといえる実態が存在するのであれば、形式的には団体として負担する自治会費であったとしても、その実質は各組合員が負担すべき自治会費を管理組合が代理徴収して支払ったものと評価する余地があるといえる。
 本件においては、管理組合が支払った自治会費は、各年度ごとに自治会から予算要求を受け、自治会の活動内容を踏まえて定められた金額であると認められ、管理組合の組合員数や各マンションの戸数に対応して定められたことをうかがわせる証拠はない。また、管理組合細則において、管理組合の支払う自治会費は、管理組合が自治会に業務の一部を委任し又は管理組合業務の補助を受けることの対価としての性質を有することが確認され、そのことが管理組合と自治会との間で確認されていることからすれば、管理組合の負担する自治会費は、管理組合の組合員が支払うべき自治会費を代わりに支払ったものではなく、自治会の行う活動のうち管理組合業務に関連する活動の対価の位置づけで支払われているものということができる。そうすると、管理組合が支払う自治会費は、自治会の活動内容に即して、自治会からの予算要求を受けて支払われているもので、自治会の被告の業務に関連する活動の対価として位置付けられているものであるから、管理組合が組合員の支払うべき自治会費を代理徴収して支払っているものと評価することはできない。
 よって、管理組合の組合員の自治会に対する脱退の自由を侵害することにはならない。

3 コメント

 管理組合の管理費と自治会費の徴収、管理が峻別されていれば、本件のような問題は生じませんが、本件では、管理費として徴収した中から自治会費が支払われていることから、それを定めた管理規約の有効性が争われるとともに、自治会からの脱退の自由が侵害されているかが争われました。
 裁判所の判断は、管理規約は有効であり、区分所有者が自治会から脱退する自由も侵害されていないと判断しましたが、大きな理由は、自治会の目的が管理組合の目的を包含しており、支払われた自治会費が管理組合の組合員数や各マンションの戸数に対応して定められた金額ではなく、管理組合から自治会に対する支払は管理組合業務の助力に対する対価であったという点が重要であったと考えられます。
 なお、区分所有者が管理組合や自治会に対し、管理組合が管理費と一緒に徴収した自治会費の返還を求めた裁判例がありますが、こうした事案では、管理組合が自治会費名目で徴収しいるという事実関係を踏まえ、区分所有者の主張が認められています(東京地判平成19年9月20日、東京高判平成21年3月10日(自治会に対して返還を求めた事案))。一方、本件と同様に、管理組合が管理規約に基づき町会費を負担していたという事案では、町内会費を納入し、町内会に協力することも管理組合の業務に含まれるとして管理費から町会費を支出する旨の総会決議を有効としています(東京高判平成24年5月24日)。

(2024.1.8)