1 事案の概要
本件は、マンション管理組合が、区分所有者居室内の浴室から階下に水漏れが生じており、このことが区分所有法6条1項所定の区分所有者の共同の利益に反する行為に該当すると主張して、区分所有者に対し、主位的に区分所有法57条1項に基づき、浴室について防水工事を施工することを求め、予備的に区分所有法6条2項、57条1項に基づき、原告が本件浴室について防水工事を施工することの承諾等を求めた事案である。
主たる争点は、区分所有者居室内の浴室から漏水が生じているかである。
2 裁判所の判断
(1)区分所有者居室内の浴室からの漏水の有無について
被告である区分所有者は、管理組合又は漏水被害のあった区分所有者等の代理人弁護士から、相応の根拠(調査液注入試験(ポスト工法)、注水試験(W.I.T)及び水圧・散水試験の各方法により行われ、前2つの試験により漏水確認)に基づき漏水の補修工事を施工することを求められても一向にこれに応じようとしないのであって、被告区分所有者居室内の浴室からの漏水により、少なくとも階下の区分所有建物の浴室天井部に継続的に漏水を生じさせており、ひいてはマンション自体にも損傷を生じさせているものである。そうすると、被告区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしており、今後もその行為をするおそれがあるといえるから、管理組合は、本件マンションの区分所有者の共同の利益のため、その停止等のため必要な措置を執ることを請求することができる(区分所有法6条1項、57条1項、3項)。そして、浴室について防水工事を施工することは、上記の必要な措置に当たるといえる。
3 コメント
区分所有法6条1項は、「区分所有者は、建物の保存に有害な行為その他建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない。」と定めています。同条違反としては、管理規約に違反した専有部分を利用した場合(民泊、風俗営業等)、専有部分から悪臭、騒音が生じた場合、共用部分が棄損された場合等が挙げられ、多くの訴訟が提起されていますが、本件は、漏水により階下の住人等が被害に遭ったという事案で、少し特殊な事案です。
本件では、階下の住人が直接、不法行為に基づく損害賠償等を請求することも考えられましたが、複数の住民に被害が生じており、漏水という性質からマンション自体にも損傷が生じているということで、管理組合が原告となって訴訟を提起し、裁判所も共同の利益に反すると判断したものと考えられます。
(2024.1.21)